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赫の千夜一夜 69
「いやぁしかし、僕っていいタイミングで登場するよね」
「……先生」
たれ目気味の目でぱちんとウインクをしてから、兵士をかき分けて二人の前へと進み出る。
「ほら、大神くん、手を離して」
瀬能はなんの遠慮もないままずんずんと近づくと、王の胸倉を掴んだままの大神の肩に手をかけた。
「どうして、ここに」
「どうしてって、招待をもらったから? 後は直江くんが真っ青になってたからかなぁ」
なんてことではないとでも言いたげに笑うと、瀬能は王に向かって柔らかに頭を下げる。
「ご招待ありがとうございます。アルノリト・セルジュ・ヴェネジクトヴィチ・ヴィレール・ルチャザ王陛下」
「やぁ、今回も無視されるのかと思ったよ」
「貴き方からの誘いを無視なんていたしません、少しスケジュールが合わなかっただけですよ」
さらりと返した瀬能を一瞬睨みつけてから、王は大神の手を払って瀬能の前に立つ。
「ドクター瀬能はずいぶんと多忙とみえる」
「そうですね、速やかに帰りたいと願っています」
飄々と言い返すと穏やかそうな胡散臭い笑みを浮かべ、「それで」と座り込んだままの大神を見下ろす。
「君がduelo de silentoを行うと聞いたけれど?」
そう言ってにやりと笑みを深めてみせた。
瀬能では到底大神を支えることはできなかったので、そこは兵士に任せて王の傍へと歩みを進める。
「話しに聞いたことはありますね」
「これは外に出る話ではないのだが?」
そう言いながら王は首元を飾っていた装飾をむしり取り、指先を隙なく埋めていた宝石を放り出す。
まるでおもちゃを放り出す子供のように見えて、瀬能は苦笑しながら散らばっていく宝飾品を眺めた。
「オメガに関することですから」
目の前をよたつきながら歩いていく大神の背中を見つつ、「でも 」と世間話のように続ける。
「 ────このような儀式でしたか?」
「だからこその、秘されているのだ」
端整な顔をして、少し微笑めば出会う人間すべてを魅了しそうだと言うのに、王はそこに険しい表情を乗せたまま歩き出す。
先を行く大神の体がふらつき、兵士に支えられ、それを払おうとしてまたよたつき……とても正常な状態とは言い難かった。
その姿を睨みつける王の目は厳しい。
「プライドごときで番を救えるなら、私は喜んで捨てるだろう」
「私めは何も言ってはおりませんよ」
物怖じもせずに瀬能はそう答えると、険しい表情のまま自分を見下ろす王に向かって肩をすくめてみせる。
「アルファだけが愛しい人のためになりふり構わず進むわけではないのですよ」
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