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赫の千夜一夜 73

 ざわ とした空気が兵士達の間に広がる。  引きずられるように押し倒され、土の上で首を絞められている姿に動揺が走って…… 「つまり、死ななければ、目がなくなろうと、半身不随になろうと、最悪 脳味噌が動かなかろうが 問題ない わけだ!」  のしかかるように体重をかけると、大神から逃れようとしていた王の手がもがくように刺青を引っ掻き、押し退け……カクリとまるで糸の切れた人形のように動きを止める。 「  ──── やめろ!」  固唾を飲むような空気を切り裂いて聞こえた声に、兵士達がはっと姿勢を正す。  バタバタと駆け寄ってきたハジメを止める者はおらず、そのまま二人の転がるサークルの中へと足を踏み入れた。 「勝負はそこまでだ、手を離せ」 「…………この勝負は、どちらかが降参するか立ち上がれなくなるまで 続くのだろう」 「もう勝負はついた……っ……た、頼むからアルノリトを……っ  っ離してくれ!」  切れた瞼からの血を滲ませた獣の目でハジメを睨み上げると、大神は血と土にまみれた手でゆっくりとセキを指さす。 「よく聞け、  あのオメガは、  俺のオメガだ」  その場にいるすべての人間に言い聞かせるように言うと、そこでやっと大神は手を離して倒れ込む。  空気が足りないとばかりに荒く息をしながら、それでも這うようににじりとセキの方へと身を乗り出す。  気が抜けたからなのか、それとも体が限界なのか……立ち上がると言うにはあまりにも不格好な姿でよたつくと、真っ青な顔のまま立ち尽くすセキの腕を引いて抱き寄せる。 「お 大神さ   」 「お前は 俺の……オメガだ」 「ぅ、ん」 「いいな?」 「はい!」  殴られた痕と、血と汗と、土まみれの体で大神は離さないと言いたげにしっかりと抱き締めた。   「大神くんよりは、向こうの様子が先かな」  ピクリとも動かない二人を置いて、瀬能はそろりとサークルの中へ爪先を入れてみる。  止められるかと思ったが、勝負がついたからか兵士達は何も言わずに瀬能の行動を遮ることはなかった。 「    ハジ  メ」 「何やってんだよ! ばっかじゃないのか⁉」 「はは…………どうしようね、  負け、て、しまったよ」  いつもの光り輝くような雰囲気は薄れ、そこにはただ負けを受け入れて起き上がれずにいるαがいるだけだ。  喉を圧迫されていたからか喋りにくそうで、咳き込んでは苦し気に呻いている。   「……そんなに、オメガが必要だったのか?」 「ハジメ?」 「俺が出来損ないだから?」 「ハジメ⁉ どうしてそんなことを⁉」  声を荒げた瞬間、王はぐっと喉を詰まらせて、土の上をのたうつようにして咳き込む。

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