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赫の千夜一夜 74

  「ちが ハジメ  」 「俺がうまく産めないかもしれないから、同じ国のオメガが必要になったんだろ? 跡取りが必要だもんな」    ぜぇぜぇと激しい呼吸を繰り返しながら、王は体を起こすと今にも泣きそうな顔をしてゆっくりと首を振った。 「ハジメ、私は君以外の番はいらないよ」  目を見てはっきりと告げるが、ぶるぶると唇を震わせるハジメは何も答えない。 「本当なんだ! そう言う目的ではな  っ」  大きく王の体が傾ぎ、うずくまるようにして倒れてしまう。  荒い息を繰り返し、顔を上げようともしない。 「アルノリト⁉」 「陛下! 担架を持ってきて! それから王宮医を呼んで!」  さっと指示を出すクイスマの脇を抜け、瀬能は王の傍らに膝をつく。  大神だけが一方的にやられていたように見えたけれど、間近で見てみるとなかなかに王も殴られていたようで、明日の朝には酷い顔になっているんじゃなかろうかと思わせる状態だった。 「御気分は?」 「……よく 見えるか?」 「お元気そうですね」  そう言うと瀬能は王の体を楽になるように動かし、腕を取って脈を診る。 「ドクター瀬能 にも 振られ、ミスター……セキも、手に入らずだ」 「仕方ありません、元々この試合が八百長だったんですから。日本では罰が当たるといいます」  冷たく言われて、王は土の入った目の痛みに顔をしかめながら諦めたように体の力を抜いた。    ざり とした土の感触に大神ははっと目を開けた。  開けると同時に跳び起きようとして……腕の中の重さにそれを中断する。  日の光の中、あどけなく額を出して寝ているセキを確認し、きょろりと周りを確認するも途中で頭の痛みによって呻く羽目になる。  脳の中を釘がバラバラに動いているのではと思わせる痛みに歯を食いしばりながら、何があったかを思い出そうとしても、どうしてもここでセキと寝ている理由が思い出せなかった。  体をわずかにでも動かせば体中からばらばらとこびりついていた土が剥がれ落ちる。  こんな状態で寝ているのだから、身を清めることができるような理性は残ってなかったと言うのはわかった。 「……」  そっと指先でセキの頬の土を払ってやろうとするも、持ち上げた自分の指の先にも土がべったりとついていたために断念する。 「  お目覚めでしょうか?」  ベッドの天蓋の外からクイスマに声を掛けられ、大神ははっと身構える。 「警戒を緩めてくださいませ、duelo de silentoの決着が着きました以上、お二人に危害を加えることは例え陛下でも許されることではありませんので」 「…………」 「お体を清められるように湯をご用意してあります」  湯 と口の中で呟き、自分の体を見下ろしてその散々な様子にふぅと溜息を吐いた。  

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