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赫の千夜一夜 78
「ここは自室でな、立ち入れる者はごくわずかだ」
大神はやはり溜息を吐き、この豪奢な城の持ち主の部屋と言うには落ち着いた装飾の部屋を進んでいく。
他と同じように白を基調としてはいたが、装飾は必要最低限に留められているかのような、そんな印象を受ける。
「はは、君は元気だな」
そう言うと寝台の上でクッションを背に体を横たえている王が面白そうに言った。
その姿はいたるところに痣を作り、片目は眼帯に覆われ、首には専用のコルセットを巻いていて、誰が見ても大神よりも重傷だ。
「陛下もお元気そうで」
つっけんどんに返された言葉の意味をくみ取って、王は噴き出すように笑うと痛みに顔をしかめて呻く。
「duelo de silentoの結果は絶対だ。もう君のオメガに手を出すことはない」
「彼に番はいません」
大神の返事に王は軽く片眉を上げただけだった。
「 ……それでは、これは敗者からの懇願なのだが聞いてもらえるかね」
「内容によります」
大神の言葉は簡潔で、王の言葉に礼儀上返事はしていても馴れ合う気はないのだとはっきりと告げている。
それは何を言っても今後、大神が自分達と関りを持たないと宣言しているようで、王は言葉を選ぶように一度口を閉ざした。
「 君は、番が大事だろう?」
「私に番はおりません」
「私は何よりも番が大事だ」
「さようですか」
「ミスター大神、この国と引き換えにミスターセキを 」
「いりません」
言葉を遮るようにして返事を返すと、大神はまた溜息を吐いて踵を返す。
「迷信に縋るより、腕のいい医者を雇うことです」
「ではっ! 出産まで! それまででいい! ミスターセキをこの国に留まらせてくれ!」
上げた声が大きすぎたのか、王はぐっとむせるようにして体を捩る。
大神はその姿に心打たれたと言うわけではなかったが、足を止めて冷ややかなままにそちらを振り返った。
金色の獅子のようだと思った姿も、敗れしまえばただの負け犬だ。
「それを決めるのはセキであって私ではありません。セキの決定権は彼にあります」
「 っ、……だがミスターセキは頷かないだろう」
「…………」
大神は是も否も答えない。
「だから説得して欲しい」
「…………」
「 君の、御父上のことで協力できることもあるだろう」
また一つ、大きな溜息を吐くと大神は再び王の寝台の傍へと歩いていく。
「随分と規模が小さくなりましたね」
「だがそちらの方が君には価値があるだろう」
王の言葉は問いかけではなく決めつけだった。
この王がどこまで調べてどこまで真相に近づいているのか定かではなかったが、大神はゆっくりと視線を外して幾度も繰り返した溜息をもう一度吐く。
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