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赫の千夜一夜 81

「昨日、は  悪かったな」 「……お兄ちゃんが悪いわけじゃないし」  思わず出た言葉に、これでは暗に王が悪いんだと非難しているように聞こえやしないかと、セキは青くなる。 「いや、アルノリトが悪いから……俺の責任だ」  悪いのは王なのに……と一抹の納得できなさを抱えながら、それでもセキはうんと頷いた。 「アルノリトは俺のために、できることをしようとしてくれていただけなんだ」  膝の上でぎゅっと握りしめられた手は、強すぎる力のためか白く血の気がない。 「俺はベータで、まともに子供を産めないから。この子はきちんと産まれて来れないかもしれないから……いざと言う時のために、あかに代わりの子供を産ませようと思って  」 「そんなこと思ってないと思うよ!」  語尾にかかるように声を上げたセキに、ハジメは怯えるように顔を上げる。 「だって、それならもっといい人いっぱいいるもん」 「……」 「わざわざ大神さんに喧嘩売らなくても、こーんなお城に住んでるならお金で解決できるはずだもん」  血の気のないハジメの手を握って、セキは温めるためにごしごしと擦った。 「それは……瀬能先生と仲がいいから   」 「瀬能先生は、そんなことで自分を曲げる人じゃないかなぁ。大神さんはオレを手放さないし、オレも大神さんの傍から離れないし……大神さん以外の子供を産む気もないし、ってか絶対大神さんの子供産むし」  叫ぶように言って、セキは話が逸れてしまったことに気づいてこほんと咳き込む。 「言い方はよくないかもだけど、日本人のオメガでお金をもらって子供を産む……って人は、いないわけじゃないと思う」  子供を売り飛ばす親だっているんだ……とは口には出せなかったけれど、代わりに苦い笑いとなって口の端に現れる。 「わざわざ殴り合って、ボロボロになって、それでもオレに執着するってのは……うーん、代理で子供を産ませるだけって言うなら話は繋がらないかなぁ」 「……」 「それに、絶対に瀬能先生じゃないとって言うなら、ここまで往診してもらうとかどう?」  指を立てながら気楽に言うセキに、ハジメは気が抜けたように「はは」と笑いを返した。 「……診る医者診る医者、全員にありえないことだって言われた」 「うん?」 「想像妊娠、詐欺、誤診、途中で発育が止まって流れる……妊娠を鼻で笑われることも多かった。そんな中で、瀬能先生だけだった……生まれる前提で話をしてくれたのは」  お腹に命が宿れば生まれて当然と思っていただけに、どの医者からも軒並み否定の態度を取られたことはハジメにとってショックな出来事だった。

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