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赫の千夜一夜 83

 お互いがお互いにいい感情を持っていないせいか大神が振り返った後も睨み合いのようで…… 「御用でしょうか」 「……あ、あか……セキのこと、どう思ってんだよ」    そう言うとハジメは目を細めるようにして大神を見上げる。  はた目には眩しそうに目を細めているだけようにも見えただろうが、フェロモンを視覚的にとらえることのできるハジメにとってはそれは相手のバース性を確認する行為でもあった。  わずかに怯むような表情を見せて俯くと、言葉を探すようにしてから「番にしないのか?」と風に消えそうな声で尋ねる。 「陛下、私はベータですので番契約は行えません」 「……」  至極真面目に返された言葉に、ちら と大神の背後にいる瀬能や直江の方を見遣り、ハジメは緩く首を振ってから首をすくめた。 「可能ならば陛下からもセキに番を持つよう勧めていただければと思います」 「はぁ⁉ あんな宣言しといてどこの口が言うかな⁉」 「……宣言?」 「ええっ⁉」  まるで心当たりがないとでも言いたげな返事にハジメが素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。   「ミスター大神、ハジメをあまり興奮させないでくれ」  自分自身が満身創痍だと言うのに王はハジメを支えるようにして身を寄せ、落ち着くようにとつむじに口づけた。  人前で臆面もなく行われる愛情表現に逃げ出そうとするハジメを捕まえたまま、王は柔らかく笑って指さす。 「君のオメガがお待ちかねのようだ」  大神は反論しようとして口を開いたけれど結局は何も言わず、風に消えてしまうような溜息を吐いてから頭を下げてジェット機に乗り込んでしまう。 「仕方ない、もう少し図書館に籠りたかったけれど、僕も帰ろうかな。それでは王陛下、失礼いたします」 「ではまた半月後に迎えをやろう」 「お待ちしております。王妃陛下、何か気になることがございましたら些細なことでもお尋ねください、お腹のお子様のことでも体調のことでも」  そう答えると瀬能は王の腕の中で恥ずかしそうに頷いている青年を見遣る。  自分と初めて会った時には少し瘦せすぎな印象を受けるただの民間人だったが と、顔に出さずに思う。  人生何がどう変わるかわからないものだと心の中でぼやきながら深く頭を下げると、隣で同じように頭を下げた直江を伴って背を向けた。 「瀬能先生、あの方……王妃様はもしやお腹に?」  タラップの手前で尋ねると直江はそっと後ろの様子を窺う。  その先にいるのは仲睦まじいとしか表現しようのないような、見つめ合いながら何事かを喋り、笑っている夫婦の姿だ。  直江は、ぎゅっと目を眇めるようにする。  

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