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落ち穂拾い的な それでも
薄暗い闇の中、鎮痛剤の効果が消えて来たのかアルノリトは痛みを感じて重苦しい瞼を開けた。
自分よりもはるかに殴られた回数が多かっただろうに、平然とここまで歩いてやってきた大神の姿を思い出して小さく悪態を吐くと、すぐ傍らで笑い声がする。
「 ! ……ハジメ」
自室に誰もが入れるわけではないとわかってはいたが、いつものように動けない中で起き抜けに人の気配がしたことに、アルノリトは必要以上に驚きを表す。
「びっくりさせたな」
ほんの半年ほど前まで着たこともなかったルチャザの衣装を着こなして寝台の傍らに座るハジメが、わずかなランプの明かりに浮かび上がる。
アルノリトは体を起こそうとして……結局ハジメの「寝ていろ」と言う言葉に不承不承従わざるを得なかった。
寝床から動けないまま赤い瞳を動かしてハジメを見遣ると、その顔は頼りない明りのせいだけではなくはっきりとくたびれて見える。
「何やってんだ……」
傍らの吸い飲みを口元に添えられ、アルノリトは何も言い返せないままにそれを咥えた。
伴侶にこんな顔をさせる予定ではなかった。
幸運をもたらすΩを手に入れ、ハジメの出産の一助になればとその一心での行動だったはずなのに……と、無様な自分を眺めて思う。
「なぁ」
ぽつんと問いかけられ、だらしのない自分の体から視線を外す。
「ハジメ?」
「…………せめて、愛人? 側室? ……を持つなら子供が生まれてからにして欲しかった」
唐突に言われた言葉に咄嗟に反応が遅れ、嫌な沈黙が二人の間に落ちる。
どうしてそんな話になったのか、自分はただただハジメとまだ名前も決まっていない子供のために、例え矜持を曲げてでも幸運を引き寄せたかった、それだけだと説明しようとして先ほど飲み込んだ水分がぐっと喉に貼りつく。
「 っ! けほっ」
「大丈夫か?」
衝撃的な言葉を吐いた割りにハジメの声は平坦だ。
何か感情の選択を間違えているようなそれは、違和感でしかない。
「ハ ハジメ……ちがう、違うんだ、彼は愛人でも側室でもない!」
アルノリトの言葉にわずかに瞳の中を揺らして、ハジメはこくりと頷いた。
「わかった。荷物は全部置いて行くから処分してくれ」
「ハジメ?」
アルノリトは自分自身の声をこれほどか細いと思ったことはなかった。
普段ならばすぐに返せそうな言葉も、頭が真っ白なせいか何もでてこない。
ただただ、立ち上がって微かな笑みを口の端に貼りつけた姿に恐れを抱いて……
暗い闇の中に沈むかのように一歩下がるハジメを追いかけて、アルノリトは痛む体を跳ね起こす。
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