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落ち穂拾い的な それでも
ルチャザですらΩ性の人間はわずかだ。
それをハジメの故郷で探すとなれば、困難は必死だった。
「おまけでドクター瀬能もきてくれそうだったしね。それからもう一つは」
アルノリトの言葉にハジメは不安そうに身を縮める。
「幸運が訪れて欲しかったからだ」
「……?」
「日本でも、参るのだろう?」
「まい……お参り?」
妊娠出産の無事を願って神社仏閣に祈祷を……と言う習慣があるのをハジメはぼんやりと思い出す。
両親がモスナートの信徒であったために馴染みはなかったが、話に聞いたことがあったとハジメは曖昧に頷いた。
「願掛け? だ」
「願掛け?」
また話が変わってくると反論したかったが、アルノリトの言いたい言葉もわからないではないとこくこくと素直に縦に首を振る。
「彼は幸運の星回りを持っている」
「はぁ?」
突然話が胡散臭くなったとばかりにハジメは胡乱な表情を隠しもしない。
アルノリトはそんな姿を見下ろしながら、この地に昔から伝わるora infano……金の子と言う存在の話をどう伝えようかと思案に暮れる。
この国の人間が肌で感じて理解している存在を、大神がそうだったようにハジメは理解できるだろうか? と悩む。
周りに幸運をもたらすΩが存在するのだと言っても絵本の話と言われてしまいそうで、なんと言えばいいのかと言葉を探した。
「ラッキーボーイだ」
「……あかは……全然ラッキーじゃないと思うけど」
幸運をもたらすならば、まず初めに自分が幸せになるべきだろう と、ハジメは幼い頃のセキの生活を思い出してますます胡乱な表情になる。
随分とヒステリックな人だった、子供にも感情そのままの言葉を投げつける人で、機嫌のいい時と悪い時ははっきりとわかる。自分の気分を最優先にして、男を優先した……あの母親の視界にセキが映っていたのか、正直に言ってハジメは疑問だった。
「幸運は自分自身に訪れるとは限らない」
あっさりとした物言いにハジメは少し不機嫌になるも、背中を宥めるように擦られて何も言えないままに口を閉じる。
「君も不安だったように、私にも不安はある。ましてやハジメに負担を強いることなのだから、できることはすべてやらねば」
「……それが、やくざに喧嘩売ることか?」
「やくざは絶滅したと聞いた」
むっとしたように唇を突き出すと、アルノリトはすねたようにぼやく。
「無謀だろ。相手は殴り合いのプロだぞ」
「それでも、できることがあるなら……」
「そんなわけないだろ……まったく」
腫れて歪んだ口元に手を伸ばして触れそうになるも、痛いだろうと思い直して手を引っ込める。
痛いとは言わないだろうが、それでも不愉快に感じるはずだ と。
「触れてくれないのか?」
腕の中にいるのだから、ほんの指先の接触なんてそれに比べればないようなのに、アルノリトは寂しそうだ。
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