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落ち穂拾い的な それでも

 薄暗い部屋の中だと言うのに色褪せることのない、赤く光る瞳でひたりとハジメを見下ろす。  懇願するように、  甘えるように、  鼻先をすり とこめかみに寄せ、「触れて」と弱々しく声を出す様子は跪いて祈る姿にも似ている。 「じゃあ……本当に、あかが……気になってるとか、そう言う話じゃないんだな?」 「ハジメ以外は路傍の石だ」 「だ……って、だけど、オメガって……なんか華があるだろ」  「はな?」とアルノリトはハジメの香りを嗅ぎつつ間抜けに返す。 「『はな』とは?」  そう言うとアルノリトは形の良い唇を弧の形に歪ませ、自愛を込めて見つめれば誰だって虜になってしまうような真摯な瞳で伴侶を見つめる。  それでなくとも芸術品のような顔立ちなのに、表情を乗せて……ましてやそれが微笑ともなれば、慣れたと思っていたハジメでさえ胸が苦しくなるような衝撃に見舞われてしまう。  端整な美しさの中にも男の色気を含んだその様子の男に、「華」の話を解くのは酷く滑稽に思えて口をつぐんだ。 「教えてくれないのか?」    傷跡が、いつも通りではなく弱っているのだと言外に訴えかけ……縋るように言われてしまうとハジメには反論する手段がなかった。 「君だけが我が愛だ」  ちゅっと額に口づける。 「君だけが我が伴侶、君だけが我が半身、君だけが我が魂、心であり、思考であり、力であり、そして神だ」 「神 なんか、じゃ……」  降り続くキスの合間に、むずがるように言うと優しい唇がやっとハジメの口を捉える。  さらさらと落ちて来た金色の髪が覆いかぶさって、アルノリトの腕の中は金でできたかごの中のようだった。  その中はアルノリトの香りで満たされ、ハジメが見ることのできる光り輝く赤いフェロモンで満たされて……  囲われたそこは息苦しくてもおかしくないはずなのに、どうしてだか酷く安心できて、ハジメは胸いっぱいに吸い込むために深く深呼吸した。 「アルノリトの匂いがする」  とろん とした顔で言うとハジメはもっと匂いが嗅ぎたいとばかりに鼻をすんすんと鳴らす。  アルノリトはそれがαやΩがフェロモンを嗅ぎ分けようとしている行動と同じものだと気づき、じわりと胸に起こった嬉しさに頬を緩めた。 「巣作りでもするか?」 「巣? ……うぅん」  すんすんと鼻を鳴らしながら、ハジメはアルノリトの提案に首を振る。  アルノリトは、ハジメがβであるために自分の服を集めて巣作りすることはないだろうとわかっていただけに、一瞬起きた「巣作りするかもしれない」と言う感情に期待してしまっていた。  ハジメに首を振られて、そうか……と肩を落とす。 「俺の巣はこれだから」  わずかに舌足らずなふうに言うと、ハジメはアルノリトの腕の中で健やかな寝息を立て始めた。 END.

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