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落ち穂拾い的な 立てこもり

「こっちはこっちで侍医がいらっしゃるでしょう?」 「ハジメが貴方がいいと言った。だから貴方が主治医だ」  なんて横暴な とも思ったが、それと同時になんてαらしい考えなのだと、直江は納得して頷きたくなる。 「いやいやいや、陛下。侍医と禍根を残すようなことをしてはなりません」  そこでやっと瀬能は本から視線をずらして王を見た。 「ましてやすぐに駆け付けることのできない人間を主体に出産を考えるべきではありません」 「……」  一瞬で起こるひりつくような空気に、直江はぎゅっと胃の辺りを押さえて俯く。 「一番に考えるべきは母体の安全です」 「だから  」 「ではなおさら、すぐに診ることの叶わない他国の人間を主治医に据えるべきではありません。もしもの時は一分一秒が重要になります、その一分一秒を陛下はただ神に祈って待つおつもりですか?」  怯まず真っ直ぐに言い返された言葉に肩を揺らしたのは王だった。 「ならば  」 「私をこちらへ迎えるのはご遠慮します。私の研究したいものは向こうにございます、例え伴侶様が前例のない出産だとしても私のそれは揺らぎません。ましてや無理やりはお勧めいたしませんよ。医療関係者と禍根を残すなと言ったのは脅しではございません」  瀬能のぱたん と本を閉じる音がやけに大きく響く。  無理やりルチャザに連れて来たとしても診る気はない、もしくは誤った治療で儚く散ってしまう命もあるのだ と暗に言われて王は口を開けないままだ。   「とは言え、伴侶様が日本に居ましたら是が非でも私が診たかったのも事実。こちらの医療チームとの連携を取らせていただければ多少のお力にはなれますよ」 「…………」  王の詰めた息がはぁと吐き出される。 「こちらが願い出ている段階でどうにもならないのだろう?」 「そうですね。まだまだ目を通したいものがありますので、検診は致します」  ね? と笑う瀬能に王は肩をすくめてみせた。 「び……びっくりしました……寿命が縮みました……」 「まだ若いのに。僕より先に逝くのかい?」  そう飄々と返して歩く瀬能に、直江は一番の原因は貴方だ とも言えずに胃の辺りを押さえながらこくりと頷く。 「でも、王様が引いてくれましたからよかったですけど、無礼者! ってなってたらどうしたんですか?」 「え?」  瀬能は蔵書の内の許可の出た本のコピーを手にきょとんと首を傾げる。 「処刑の習慣もあったと聞きました」  ひそりと声を潜めて言う直江に瀬能は「ははは!」と盛大に笑いを漏らす。  そんなことはありえないだろうと言いたいのかと、直江は胡乱に睨みつける。 「いや、いや、無理無理! 例え王様でも……僕を害すことは叶わないよ」  もう一度「ははは」と笑いながら、瀬能は軽い足取りで歩いて行った。 END.  

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