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ケダモノの聖餐 4

「汚すなよ。スタッフが迷惑するからな」  それだけを言い置いて、大神は眩しい光の中へと消えてしまう。  無情にも閉じられていく扉を見ながら、男はカタカタと震えて……知らず知らずのうちに祈るように組んだ手を胸に当てる。 「お 俺はこれから  どう   」 「あんたオメガだっけ?」  カクカク と首を傾げながら問われ、男はうまく動かない唇で「俺がオメガだと⁉」と低い声を絞り出す。 「発情しては辺りかまわず股を開いて涎を垂れ流す畜生だと⁉」  嫌悪感も露わなその言葉は、男がΩをどのように思っているかはっきりと示した。 「だと思った。だってお前、不細工だしな」  レヴィの首がカクン と落ちるように逆側に傾げられ、薄ら笑いが派手な色の髪の下から覗く。  それが男がこの世で見た最後の光景だった。  すがるの崩れた指先がざ と音を立てて戻る。 「だから、大神に汚すなって言われてたでしょ⁉ 私達がここを汚すとスタッフが片づける手間が増えるし、血は落ちにくいんだからカーペット取り換えになるかもでしょ? 他人にそう言ったわざわざ手間をかけさせるのを大神が嫌うって知ってるだろうし、さっきも注意受けてた 「わかってるよ」  レヴィはすがるの言葉を遮った。  この調子で言わせ続けると延々と話し続けて終わらない可能性があるからだ。  それはすがるにかかわる人間なら誰しも知っている事柄だった。  二人は骨だけになった男をなんの感情も籠らない目で見下ろし、一仕事終えたとばかりに肩を竦め合う。  ここまでしてしまうと後は回収組が持ち去り、綺麗に砕いて処分してくれる手はずになっている。  後は二人の知るところではないし、興味もない。   「さ、帰りましょうか」 「お腹空いた」 「野菜バーにでも行く?」 「肉がいい」  レヴィがそう言うとすがるはちょっと振り返り、骨だけになった男を眺めて…… 「今日はもう、お肉は嫌よ」 「しょうがないな」  納得した様子で扉を開けると、「お疲れ様です」と直江が声をかけた。  いつも通りのスーツ姿ではあったけれど、手には似合わない百合の花束を持っている。  真白で、純潔を表現するのにこれ以上ないほど美しいその花は、この場には似つかわしくない神々しさだ。 「どうぞ」  直江は硬い声音で花束をレヴィに差し出し、何かを我慢するようにごくりと喉を鳴らす。  明るい廊下にいると言うのに縮むことのない瞳孔が直江の顔を見て、それから白い百合の花束に向く。  たったそれだけの行動なのに、静まり返った廊下は今にも張り詰めた空気で気が狂いそうなほどだった。 「  ────ああ」  

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