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ケダモノの聖餐 5

 首の支えを失った人形のようにレヴィの首がカクリと動く。 「そうか、今日か」  張り詰めた空気なんて気にしない態度のまま、レヴィは直江から花束を取り上げる。  南国の鳥のような派手な頭髪のレヴィと白い花とがちぐはぐな印象を持たせて……直江は花束が手から離れてやっと、息ができたとばかりにほっと息を吐く。  レヴィは腕の中の百合の束を覗き込むと二人を置いて歩き出し、振り返りもせずに突き当りのエレベーターに乗ってしまう。 「……大丈夫?」  すがるはぽん と直江の肩を叩くと、血の気の引いた顔に困ったように肩を竦める。 「ああ。……少し……」  直江は目を眇めるようにしてレヴィの消えたエレベーターの方を眺め、溜息のように呟いた。  レヴィは幾重にも金網に囲まれた建物に近づくと、モニターに向かって手をかざす。  登録情報を読み込んでいる間に目を細めて金網の向こうを眺めると、太陽の光を浴びてチカリと光る建物が見える。  幾つもの門を潜り抜けて、やっと辿り着いた先にある建物は温室だった。  白い支柱とガラスでできた建物は無機質で、植物を育むための場所とは思えない。 「ベース!」  外の厳重さとは裏腹に温室の扉には鍵一つついておらず、レヴィは慣れた手つきでさっさと入る。  高い湿度と外より幾分高い温度は慣れない人間には嫌悪感を抱かせるかもしれない。けれどレヴィはするするとその中を進んでいき、少し広まったところできょろりと辺りを見回した。  ホースや木の根が這う先、空間がぽかんと空いた先にあるのは池だ。  それもただの池ではなく白い花と緑の丸い葉っぱが所狭しと茂る場所だった。 「ベス!」  もう一度大きく声を出すと、池の向こうにひょこりと動くものが見えた。  それが、左右に振れながら走るでもないスピードで池を周り…… 「レヴィ」  ずいぶんと時間をかけて池を回ってくると、レヴィの名前を呼ぶ。 「ベス!」  レヴィは瞳孔が開いたままの目をきゅっと細めると、珍しく柔らかな笑みを零してベスと呼んだその……────その奇妙な者に近づいた。  背丈は大神かそれ以上かと思わせるほど高かったが、上についている頭は不自然なほど小さく、髪も漆黒で真っ直ぐな部分もあれば美しい金の巻き毛の部分もある。  見下ろす瞳は片目は美しい緑をしていたが、反対側は一つの瞳の中で青とブラウンがせめぎ合うような色をしていた。  顔立ちは天使のようにあどけなかったが、そこから続く体は分厚く、筋肉質で黒い肌をしている、そして左手は細く長い白い手をしていたが右手は肌こそ白いが筋肉質で鍛え上げられた腕だった。  

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