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ケダモノの聖餐 6

 足も同じように左右非対称過ぎて、歩くのに支障がでるほどだったが……形だけを見るならば右の足も左の足もそれぞれに美しい。  世界中の人間を混ぜて、一番美しいと思ったパーツだけを繋げてできたような存在だった。 「レヴィ、いらっシゃい」  ふっくらとした唇から零れる声は二重にダブって響く。  まるで二人の人間が同時に喋っているような音声だった。  ベスと呼ばれた奇妙な人は、レヴィが後ろに持っている花束に気づくとぱっと嬉しそうに笑顔を見せて温室の奥を指さす。 「いこ!」  小さな子供の掛け声と変わらなかったが、レヴィにはそれがよかった。  コクリと首を縦に振ると、ベスは鼻歌を歌いながらまた左右に大きく傾ぎながら歩き出す。  森の中のように見える蓮の池のほとりを歩くが、お互いに会話らしい会話もない。  ただベスの鼻歌だけが人のいる気配のようで…… 「…………」  横目で見る蓮の池はどこかで見た宗教画のように神秘的だ。  レヴィの手に持たれている百合と同じ真っ白な花と、エメラルドのように広がる独特な形の丸い葉の重なりは天上と天下をはっきりと線引くようにも見える。  二人は会話もしないまま温室の奥へと行くと、地植えされた一本の木の元へと近づく。  そこにあるのは花に埋もれた半円形を少し歪めたような石板で、墓のようだったが文字は彫られていなかった。 「今日ハね、レヴィがきてくれたヨ」  ベスはそう言うとその前に膝をつく。  それに倣うようにレヴィも膝をつき、持っていた百合を墓の前に置く。    腕の中にあった間は大きな花束だと思ったが、花に囲まれたそこに置くと色がない分なんだかしょぼくれて見える。  レヴィはそのことに気が付き、次に用意してもらう花束は色のあるものにしよう 首を傾げながら思う。  無地の墓を二人して眺めながら何をするでもなかったけれど、二人はずいぶんと長い時間をそうして過ごした。  手の水をちょん と蓮の花の先端につけると、その水が染み込むようにさっと広がって白い花びらが透明に変わっていく。   「やっぱりおもしろいな」  さして感情も込めずに言うレヴィに、ベスが慌てて駆け寄って注意する。 「水かケちゃダメだよ」 「必要なのは花芯なんだろ」 「でもソれをすると傷みやすくなるカら」  め! と叱るように、レヴィの手をベスがハンカチで拭く。  その指も、左手は普通だったが右手の指は一本一本別人から集めてきたようにちぐはぐな長さだった。 「コレは大事な、花なんダよ」  にこにこと笑うベスは、「先生が持っテきた新しい苗が  」と言ってレヴィの手を引く。  

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