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ケダモノの聖餐 8

 三人が産まれた施設は、αの攻撃性を最大限に引き出す研究とΩの遺伝子が持つ取り込む特性の研究……それから、死者復活の研究がなされていた。  荒唐無稽、まるで無知な子供達が寄り集まってままごとをしているようなその施設は、けれど実際に三人の子供をこの世に送り出した。  数えきれない命の犠牲の果てに、生み出されたのが、  すべてを取り込む巨体の獣、№0B-ベヒモス  殺意の塊である理性無き獣、№0L-リヴァイアサン  そして、復活した死者である№0Z-ジズ  であり、写真の三人の子どもであり、今現在のベスとレヴィだ。 「レヴィ」  不安そうな声は小さな子供が立てるものと変わらない。  もし他の人間がそんな声で名前を呼ぼうものなら、レヴィは一瞬の怒りに任せてその人間を切り刻んでいたはずだ。  けれど、ベスが呼ぶならば……と倣うようにベッドに腰かける。    今は二人だけだったが、小さな頃は三人でこうしてベッドに並び、それぞれがそれぞれに持たれながら苦しい施設の生活を耐えていた。  一応の成功とはされたものの、三人はまだ幼くまた取るべきデータは山ほど必要だった。  それは血液であったり、行動であったり、思考であったり……  幼い子供に課せられるには残酷すぎる実験が繰り返され……    貴重なモルモットとしては丁重に扱われたがそこに人権は存在しなかった。  日々殺せと命じられる実験も、  日々体を切り刻む実験も、  死者を生者にするために施されるあらゆる実験も、  そこに人の心はないように過酷なものだった。  忘れられる出来事ならば忘れもするが、けれどそれは同時に三人で過ごした時間すらも薄れさせてしまう行いだったため、心の底に埋めることもできずに二人でこうして眺めるしかできない記憶だ。 「来てクレて、嬉しイ」  にこにことベスは笑うと、大きな体をぐっと縮めてレヴィの胸へと耳をつける。  そこに息づく確かな鼓動は懐かしいリズムを刻み、生きているのだとベスに伝えた。  ちぐはぐな指先で胸を探ると、胸の辺りに正中線に沿ってまっすぐな傷跡が指先に触れる。  小さな切り傷なんてものじゃない、随分と大きな傷だ。  レヴィは一瞬嫌そうな顔を浮かべかけたが、ベスが甘えるようにそこに指を這わして目を閉じて祈るような表情を見せたために、拳を作って唇を引き結ぶ。 「三人そろったって感ジがする」  その言葉はレヴィを懐かしい気持ちにもさせたがそれと同時に、どうにも収まらない焦燥感を暴き出す。  心の底から這い出てくるような衝動は、目の前のベスの首を掻き切ってやりたいと切望し、すればいいと唆す声だ。

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