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この恋は不幸でしかない 2

「お母さん、お迎えに来られた?」 「はい!」  元気よく返してくれるたけおみの視線に合わすようにしゃがむと、大きな目が不思議そうにぱちんと瞬く。 「ほたるせんせい、おリボンしてます」 「はい。そうですよ」  見下ろす形にならないと見えないからか、たけおみは不思議なものを見る目で首を傾げている。  保育園の教諭の首には、教師と言う立場柄、しっかりとしたネックガードをつけなけれならなかったが、あまりにいかつい実用本位の物をつけると子供達が怖がると言う理由からファッション用のネックガードを付けざるを得ないのだ。  退勤の際にはしっかりしたものをはめるが、今は園内なのでピンクや緑、黄色のリボンを編んだ可愛らしいファンシーなものをつけていた。 「かわ えぇと、おにあい、です」  周りの人間が、そんな言い方で褒めていたのを見ていたのだろうか? たけおみの態度はギクシャクとはしていたが大人の態度そのままだ。  可愛らしい姿に似合わない物言いは、そのちぐはぐさで更に可愛いものとなっている。  「ありがとう」と返すとたけおみはむず痒そうな、それでいて誇らしそうに恥ずかしそうにこくりこくりと頷いて帰っていった。 「たけおみくんのお母さん、美人ですよねー」  手を振って見送っていた横で同僚に声をかけられ、穂垂はびくりと肩を揺らす。   「あ……綺麗な方ですよね」 「あそこ、旦那さんも美形でね。たけおみくんも将来かっこよくなるんだろうねぇ」  さぁ仕事に戻るか と同僚は保育室に戻っていったが、穂垂はちらりと振り返り、ぷくぷくとした頬を赤くしていたたけおみが成人する姿を考えてみるも……どうしても可愛らしい姿以外を想像できなかった。    この世界で、運命に出会える人はどれほどなのだろうか?  手に触れるだけで、もうそれだけで幸せになれると言う瞬間を感じたことのある人は?  穂垂はそう考えて、皺を刻んだ彼の手に触れた時のことを思い出す。  そうすると胸がじんわりと温もり……そして彼が傍らにいない絶望に打ちひしがれる。  それを幾度も繰り返し、やっと前向きになって乗り越えられそうになったところだったのに……と、穂垂は目の前に現れた男に対して怯えの感情を抱いた。  バランスのいい好感が持てる顔立ちにすらりと高い体躯、決して細くはなく程よく筋肉がついているのだと言うのが服の上からでもわかる……  αなのだろう、一度目にしたら忘れられないような存在感を持つ人を、無視することは穂垂には難しかった。 「…………お お迎え  ですか」  尋ねた声はひび割れて、人に話しかけるにはふさわしくなかった。

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