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この恋は不幸でしかない 5
「おとうさん、まだこない?」
腕の中がもぞりと動いてそう問いかけてくる。
園の方に父親が迎えに行くと連絡があり、その後遅れると電話があったが……
母親の方も父親の方も仕事で携帯電話の電源を落としているのか、幾度お迎えの時間を尋ねようとしても連絡がつかなかった。
本来はこんな時間まで預かることはないのだけれど、連絡がつかないために仕方なく保育園で預かり続けている。
園長は地域支援の会議だと席を外さなくてはならなくなり、同僚達も家庭があったりで帰らざるを得なくなってしまった。
もう一人、独身の同僚が一緒に残ってはいたけれど、顔が赤いと指摘すると「ヒートがきそうで……」と困ったように言うから、穂垂は先に帰ってと言うしかできず……結果、たけおみと園に残っている状態だ。
穂垂自身もこの時間まで園に残るのは初めてのことで……少し心細いと感じていたのかもしれない。
汗ばむほどの子供の体温に温められて行く体は、緊張してしまっていたのがよくわかる。
「もう少しかな? 先生と待つの飽きた?」
「うぅん……ほたるせんせいといると、うれしいです」
ぺたり と柔らかな頬を胸につけて全身でしがみつかれると、愛おしいと言う気持ちがぎゅっ胸を締め付ける。
これがあの人の血筋だからなのか、そう言うのを抜きにしての愛おしさなのかは穂垂にははっきりと答えられなかったけれど、自分を頼ろうと小さな存在が手を伸ばしているのが愛おしくて堪らない。
腕の中で居心地よさそうにするたけおみの背中をとん とん と緩く叩きながら、小さな頃に母が歌ってくれた子守唄を思い出しながらぽつりぽつりと歌う。
いつも園で歌うものよりも幾分古めかしい歌を、たけおみは不思議そうに聞いていたけれど低い音が独特の抑揚で続くためか、やがてとろりとした表情になり……いつの間にかくーくーと可愛らしい寝息を立て始めた。
脱力したために感じる重さに苦笑しながら、そっと額の髪を避けて……
「んー……あの人に、似てる かも?」
もっとも、彼の額は皺だらけだったから比べてわかるようなものではないと、穂垂自身もわかってはいるのだけれど。
お昼寝用のマットに寝かせてそっと掛け布団をかける。
夜の保育園にいることで興奮して寝ないかもしれないと思っていただけに、すやすやと寝息を立てる姿は意外だった。
「……あっつ……」
汗ばむような気温ではないけれど、温かな子供を抱きしめていたからか体の内がぽかぽかと熱を持っている。
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