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この恋は不幸でしかない 6
「冬場はたけおみくんを抱きしめてたらカイロいらないかも」
ふふ と小さく笑った拍子に、ふと鼻先を甘い匂いが掠る。
ソレは同僚の残したフェロモンの匂いで、発情期が近いと言っていただけにセクシーな香りに感じてもぞりと体を揺すった。
露骨な性表現ではないが、孕みたい衝動を抱えているのだとわかる香りに気恥ずかしくなって慌てて立ち上がる。
そう言えば同僚が発情期だと言っていたのだから自分もそろそろのはず……とカレンダーに目をやった。
職員用のカレンダーには子供が見てもわからないように、けれど職員が一目見てわかるようにと個人に割り振られたマークのシールが貼られている。
穂垂に割り振られたマークはひまわりで、それが週末から五日間に渡って連続で貼られていた。
暗黙の了解で、その貼り方はΩ性の発情期間を表す。
「今回は土日にかかっちゃうんだよね」
社会人としてはよかったと言うところだったが、それでも休みが潰れるのは悲しい。
ちょっとだけ頬を膨らませて、穂垂は事務作業に戻ろうと振り返り……園の駐車場に入り込んだ車のライトに気づく。
昼間ならともかく、この時間に来園する客なんてまずいない。
穂垂はお迎えが来たんだとたけおみの帰宅準備をしようと動き出し、ふと手を止めた。
「今、……今がチャンスだよね?」
たけおみの迎えがなかなか来ないことに同情もあったがこんな機会滅多にあるもんじゃない! と、穂垂は跳ねた心臓の上に手を置いて深呼吸する。
あの人のことを尋ねるのに、周りに人はおらずたけおみも寝ている、ここまでお膳立てされることもなかなかない。
これで迎えに来るのが父親ならば……と、駆け出したい気持ちで急いで玄関へと向かう。
彼の、近況を知ることができる!
弾む気持ちを抑えきれないまま玄関に着くのと、たけおみの父親が入って来るのはほぼ同時だった。
お互いに急いでいたためか軽く息が弾んでいたために、目が合うと驚きに固まってしまって……
「あ……」
「っ……遅くなって申し訳ない」
仕事が とか用事が と理由を並べるのかと穂垂は待っていたが、たけおみの父親からは何もそう言った言葉は出ず、「ご迷惑をおかけしてしまった」と謝罪の言葉ばかりが続く。
「いえ、故意でないのはわかっておりますし、大丈夫ですよ。たけおみくんですが、待ちくたびれて寝てしまっていて……」
いつ話を切り出そうかと様子を窺いながら、たけおみを寝かせている部屋へと向かう。
「抱っこしたらすぐに寝ちゃったんですよ」
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