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この恋は不幸でしかない 12

 自分の頭で考えているはずなのに、自分の思考以外がしゃしゃり出てαを欲しがっている混乱も、やがて激しくなっていく発情期に翻弄されて霞んで行ってしまった。  眩しい光が瞼を通して見えた時、穂垂はそれが何かわからなかった。  明るい と言うことは理解はしていたがわからない、ただその目を射る痛みが煩わしくて、ぐずるように顔をそむけると自然と声が漏れた。  まるで、小さな子供の舌足らずな喋り方のようだ。 「ぁー……ぅん? き、 ぃあ?」 「目が覚めたか?」  問いかけも、それが言葉だと理解はできたが意味が分からなかった。  ぽかんとした間を開けてから、穂垂はそれが自分に向けられた意思のある言葉なのだと感じて、そろりと眩しさを堪えながら目を開ける。  傍らに立つ人間が、穂垂が眩しがっているのに気づいたのか体をずらして影を作ってくれた。  そこでやっとその影を作ってくれた男が何者かわかり、穂垂ははっと思考能力を取り戻す。 「な゛っ  」  枯れた喉は小さな言葉は許してくれたが、きつい発音には耐えてくれなかったらしい。  喉の荒れた粘膜同士が張りつくような不快感だけがして、声らしい声は上がってはくれなかった。 「喉が枯れているんだ。ずいぶんといい声で鳴いていたから」  そう言うと、上裸を惜しげもなく晒した東条はペットボトルの水を口に含んでさっと身をかがめる。  口づける先はもちろん穂垂の唇で……繰り返し繰り返し重ねて少し腫れぼったいそこは、東条の唇に馴染んではいたが穂垂の意識に入ったのは初めてのことだった。 「んっ」 「今更、キスくらいで」 「いま さら  」  キスと繰り返した瞬間、どれほど自分がこの男の唇に食らいつき、愛撫し、唾液を強請ったかを思い出す。  フェロモンによる熱に浮かされての我を忘れたような行為だったとは言え、わずかに手繰る程度の記憶は残されていた。  いっそ、すべて覚えていなければ、東条の頬を張ることもできたと言うのに……  穂垂はがくがくと手を震わせながらなんとか東条押しやると、真っ青な顔で辺りを見渡す。 「   っ」 「ここは、……」  東条は少しだけ言葉を切った。 「そうですね、愛の巣はどうかな?」 「  え?」  さっと手で示された部屋はどこかのモデルルームにそのまま引っ越してきたような、お手本と言いたくなる部屋だった。  今は情事の後でところどころ乱れてはいるが、それ以外はただのマンションの一室だ。   「さ、もう少し休むといい。喉にいいものも用意しておくから」 「  っ、ぁ゛っん゛! ぼ、ぼくは  っ」 「ヒートを起こして、5日もこもりきりだったんだから、まずは体を休めるべきだ」

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