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この恋は不幸でしかない 19

  「ここには私達しかいない。今更恥ずかしがることはないだろ」  とん と水のペットボトルを置いた東条はおどけるように手を広げてみせる。  そうするとバランスよく鍛え上げられた体が披露されて……  さらけ出された肉体の生々しさに、穂垂は怯んだように視線を逸らした。 「違いますっ……病院に……」 「どこか具合が? すぐに医者を呼ぼう」  はっとしたように駆け寄ろうとした東条に対して身をすくめ、穂垂は「こないで!」と短く叫び声をあげる。 「……薬を、もらいに……だから、服をください」 「薬? 何か持病でもあったのか?」  東条は慌てたように声をかけると、逃げようとする穂垂へと数歩で近づく。   「近づかないで!」 「穂垂」 「 っ!」  ざわりと体に走った痺れに、穂垂はさっと耳を塞いで逃げようとしたが、東条はあっと言う間に距離を詰めて穂垂を抱きしめてしまう。  馴染んだお互いの体温は、密着すると溶け合って消えていくような錯覚を感じさせる。  それは、αの傍らにいるから感じるΩが本能的に持つ安堵感だ。    穂垂は慌てて首を振ると、残っているすべての気力を使ってそれを振り払った。 「アフターピルをもらいに行くんです! 早くいかないと   」    突っぱねる手を押さえつけながら、東条は努めて声が柔らかくなるようにゆっくりと喋り始める。 「穂垂、私たちは、もう何日ここに籠っていると思う?」  外の音が全く聞こえない空間。  窓からの光は昼か夜かを教えてはくれたがそれだけで……  時計を見上げたところで答えなんて返るはずがない。  縋るように東条に視線を移すと、少し困ったような表情を返されてしまった。 「ヒートは5日で終わったのは覚えてる?」 「いつか……かん ……」  熱に浮かされている間は短く感じたせいか、もうそんなに経っていたのかと穂垂は悲鳴を上げそうになった。 「プラス2日」  長く形の良い指が2本立てられて、穂垂は上げることのなかった悲鳴をわずかに零してしまう。  ひぃ と恐怖とも何とも形容のできない呻き声を聞き、東条は困ったように肩を竦めた。 「夢中になっていたからね。仕事場の方は秘書がいいように言ってくれているはずだから、何も心配することはないよ」 「  ────っ ど、どうするんですかっ!」  穂垂の大声に、東条は目を丸くしたけれどすぐにくすりと男らしい笑みを見せる。 「大きい声も新鮮だ」 「なっ  何をバカなこと……っヒートの最中、僕にピルを飲ませては……」  一縷の希望とばかりに穂垂は尋ねたが、きょとんとした様子の東条に絶望を感じてふらつくようにその場に崩れ落ちた。  

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