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この恋は不幸でしかない 20
「あ……貴方はっ……なんの避妊の対策も立てないまま……っ」
「それはお互い様です」
「僕はっ もし……、~~てたら、どうするんですか」
東条ははぁと溜息を吐き、穂垂がわざと濁した単語をわざわざ拾い上げて口に乗せた。
「できてたら、お祝いしましょう」
「なっ ────っ⁉」
「仕事を続けたいのであればサポートしますし、園を辞めるのならば養います。たけおみも兄弟ができると喜ぶでしょう、ましてや母体が『ほたるせんせ』なのだから」
にっこりと綺麗な笑顔を見せ、東条は「いや、悔しがる可能性の方が高いかもしれない」と深刻そうに呟く。
「ふざけないでくださいっ! 子供のことをなんだと思ってるんですか! こんな突然……こんな…………関係でなんて、子供が可哀想です!」
「さっき、子供を流そうとしたのに?」
「⁉ ピ、ピルは……性犯罪の、被害者の負担を減らすためには必要、です」
ぴりっとした空気にさすがの東条も眉間に皺を寄せ、穂垂の震えたままの腕を取った。
振り払おうとする穂垂の力に抗い、逃げようとするのを押さえつけて自らの懐へと引き込むと、顎を掴んで無理矢理視線を絡ませる。
息が詰まりそうなほど間近で覗き込まれ、東条の繊細な造りの瞳の濃淡の美しさに一瞬気を取られてしまう。
「穂垂。私に跨り、奥の奥で堪能したのは誰かな?」
濁りのない水晶で作ったような双眸がゆっくりと細まって笑みを作る。
端整な顔に浮かべられた笑みは平素ならば好感が持てるだろうに……
「ゃ……」
「自ら招いて自ら腰を振り、自ら私にしがみついたのを……忘れてしまった?」
両目がぱちりと瞬いたために緊張が緩み、穂垂ははっと詰めていた息を吐く。
東条はわずかに首を傾げると、甘えるように穂垂のこめかみに口づけてから大きな手で抱き締める。
「貴方が甘えて私の子種を欲しがった」
「ちがっ それはっヒートのせいで……」
穂垂は東条の腕の中から逃れようと突っぱねてみるもびくともしない。
「本能のせいにする?」
「っ 」
困ったように眉尻を落としながら尋ねられると、穂垂は口を噤まなくてはならなくなる。
本能ゆえに発情して我を忘れてαの精液を欲しがってしまったのだとしたら、Ωの発情に中てられたαが引きずられることも、項を噛んでしまうこともそれが悪いことになってしまう。
発情もセックスも項を噛まれたことも、すべて個々人が悪いのではなく人間の根底にある生きるための能力が生み出したもので……
東条を責めることも、自分が被害者になることも自分勝手なダブスタとなってしまう。
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