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この恋は不幸でしかない 22
「それでも生きているんです、だから……今更噛まれたところで、これ以上の寂しさで死んだりなんかしません」
穂垂ははっきりと返すと、困惑の表情を浮かべる東条をまっすぐに見つめ返した。
自分のアパートだというのに、穂垂は部屋に入った瞬間の違和感に立ちすくんだ。
何が変わったわけではないし、何かが起こったわけではなさそうで……最初、それは長時間留守にしていたために埃っぽくなってしまったからだと思い込もうとした。
少し湿っぽい布団に風を通し、いつも通りの手順で掃除を行う。
なんら変わりはないはずなのに、ふとした瞬間きょろきょろと周りを見渡してしまって……
「 なんだろ」
1LDKの小さな部屋は一目ですべてが見渡せてしまうのに、何度も何度も繰り返し見返してしまう。
「…………あんな広い部屋にいたせいかな」
東条に閉じ込められていた部屋と比べると、ここは玄関程度の広さだ。
そこに十日近くも閉じ込められていたのだからそちらに慣れてしまったのだろうと納得させる。
空調も効いていたせいかここは少し肌寒く感じてしまい、穂垂は帰りに持たされた荷物の中から少し大きめのブランケットを取り出して肩にかけた。
家に帰るための服だけ用意してくれればいいと突っぱねたのに、東条が用意したものは大量の大きな紙袋だった。
ダメにしてしまった服の代わりと詫びだというそれを一つだけもらって帰って……その中に、おまけだと言って東条が入れてくれていたものだ。
「……あ、 」
ふわりと軽さを感じさせないのに十分な温かさを持つそれにくるまると、すとんと肩から力が抜けていくのがわかる。
東条に閉じ込められていたあの部屋から出て、自分の部屋に帰りつき……今この瞬間までどれだけ緊張していたのか、穂垂は自分の心に従って力の抜けた体でごろりと床に倒れ伏す。
硬い床はひんやりとしていて、あの部屋とは違う。
生活のための物が溢れかえったここは雑然としていても自分の領域で安全地帯で、安心できる場所だったはずなのに……ブランケットにくるまった今が一番、安心できることに気が付いた。
発情期だからとはいえ、いつもよりも長く……しかも無断で仕事を休んでしまったことに穂垂はクビを覚悟で出勤したが、園長から「大変でしたね」の一言をもらっただけだった。
拍子抜けと共に居心地の悪さを感じて、今回の無断欠勤のことについて説明をしようとするも緩く首を振られ、まるで口に出してはいけないとでも言いたげに真っ直ぐに引き結んだままで……
「で、でも……」
「 園児が登園してきますよ」
その一言だけが返される。
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