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この恋は不幸でしかない 23

 いつもは少し厭味ったらしいと思えてしまうような物言いをするのに と、向けられた背中に居心地の悪さを感じながら思う。  それは同僚に謝罪に行った際もそうで、「大変だったんでしょ? もう体大丈夫?」と逆に心配されてしまった。 「あ……でも、ご迷惑をかけてしまって……」 「新しい抑制剤の副作用だって聞いたけど……無理してない?」 「はい⁉」  思わず飛び上がりそうになりながら出た返事を、同僚は肯定の意味でとらえたらしくとらえたらしく、よかったよかったと頷く。 「クロノベルの方から連絡があったって聞いた時はびっくりしたんだから! ヒートだからお見舞いにもいけなかったし……退屈じゃなかった?」 「あっえっ……えっと……だい、大丈夫、でした」  あはは と笑ってごまかし、同僚からの言葉でなんとか自分がどういった理由で休んでいたのかを知り……  東条が一体どうしてそんな理由にしたのか、会って問いただしたい気分になった。    穂垂は自分を見つけて駆け寄ろうとした瞬間、たけおみがびっくりしたような顔をして立ち止まってしまったことに気づく。  いつもなら園門をくぐった辺りから一直線に駆けてきて…… 「たけおみくん? おはようございます」  そう言って手招いてみるも…… 「ぁ、ぅ  」  その場でもじもじとしたまま動かない。  後ろから追い越して入って来る園児達がきょとんとした顔をしていたけれど、それでも歩き出す気配はなく、様子のおかしさに駆け寄った。  出勤が久しぶり過ぎて顔を忘れられてしまったのかもしれない。  すごく懐いてくれてはいたけれど、子供にとっては長い時間会えなかったのだし……と、傍らに膝をつきながら思う。  それに、たけおみの父親との間でしでかしてしまったことを考えるなら、たけおみとはこのまま疎遠になった方がいいのかとも考えて……   「園の方は問題なかっただろう?」  いつも通りに隙のないスーツ姿で声をかけられ、穂垂ははっと息を飲むようにして視線をたけおみの足元へとやる。  たけおみがいつも履いている青い靴が見え、追いかけるようにして端に艶のある革靴が現れた。  持ち主の確認のために顔を上げる必要はない。 「……っ」  どっと跳ねた心臓に、全身の血液が押し出されてじわりと汗が滲みそうになり、穂垂は喘ぐようにはっと息を吸う。   「その話もする予定だったが、君は大急ぎで飛び出してしまうか   「子供の前で!」  顔を上げることもできないまま、東条の言葉を遮る。 「ほたるせんせ……?」  東条の言葉を遮るために上げた声がたけおみを怯えさせたのだと知り、穂垂は慌てて顔を上げた。

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