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この恋は不幸でしかない 43

   疲れから熟睡しているために薄く開かれた唇を貪ったところで、東条は我に返って肩を竦める。  互いの混ざりあった唾液で潤む唇にもう一度だけと軽くキスを落とした。 「これじゃあ……離れられないな」  自嘲気味に笑い、すべてを達観できそうなほど生きた大伯父が最期に行った事柄を、納得する日が来るなんて……と呻きながら立ち上がる。  ────遺伝子の相性がいい。  東条は運命の番についてそれがすべてだと思っていた。  だから、番になってしまえばこの飢えるような渇望もすべて収まるのだと思っていた……が。 「……遺伝子を残すためだけじゃないのか?」  遺伝子の相性だけを考えるなら、妻だって申し分のない存在だ。  そのために選ばれた相手なのだから……  けれど と東条は服を着ながら訝しむ顔をして振り返る。  視線の先にいるのは発情期の疲れのせいでピクリとも動かず、死んだように眠っている『運命の番』だ。  やっとの思いで覚悟を決めてその隣から抜け出したというのに、振り返った今、すでにまたベッドに戻って抱き締めたくて堪らなくなっている。  この心の動きは何なのか、他の番達に感じたことのない執着と離れがたさはいったいなんなのか?  東条はそれを考えながら振り切るようにして寝室を出て書斎へと向かう。  ここに来る直前、正確には保育園に行くまでに起こったことを思い出しながらパソコンを立ち上げるために腰を下ろす。  暗い画面に映るのは疲れからか、薄ら昏い顔の自分自身。  急に現実を突きつけられたような気になって、東条は急いでパソコンの電源を押した。  自分を直視することができず、わずかな起動音が終わるまで目頭を押さえて俯く。  今回起こった事柄が、せめて一つずつ起こってくれていたらもっと丁寧に対応することができただろうに と、呻くようにして首を振る。  あの何にも揺るがないような大神ならばどうするだろうかと、どうしようもないことを考え、最終的には立場が違うと自問自答で結論をつけて顔を上げた。  たけおみと妻の方には、マンションに籠った日に秘書から連絡を入れてある、東条自身が直接連絡を入れることができたらと思っていたが、状況がそれを許さなかった。  かなともはこんな状況だからと言って彼女の元に返すわけにもいかず、信頼できる医師に預けてはいるが…… 「自分では子育てに積極的に参加していると言ってはいたが……」  医者としては信用しているが、人としてはどうだろうと訝しみながら瀬能にむけてテレビ電話をかけた。

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