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この恋は不幸でしかない 44

「 ────っ⁉」  ガタ と椅子が大きな音を立てる。  飛び上がった東条の動きに合わせて弾んだ椅子が後方へ軋みながら動き、ゆっくりと止まる。 「  やぁ、連絡待ってたよ」 「……瀬能先生?」 「僕にかけて来たんだろう?」  皮肉を込めたような声音に東条は逃げた椅子を引き戻して腰かけた。  画面いっぱいに映るファンシーな熊の顔に、困惑を隠せないままに「かなともは?」と問いかける。 「大神くんも時宝くんもちょっと僕をぞんざいに扱いすぎじゃないかな」 「  っ」  呑気な声を出した瀬能が、はっとしたように黙りこくってからやれやれとクマの被り物を脱ぐ。  汗で張り付いた髪と滲んだ疲労が、この医者がどれだけかなともの相手に苦心していたかを物語る。 「口が滑ったね、悪かったよ」 「……いえ」 「とはいえ、東条くんはもうちょっと僕を労わってくれると嬉しいね」  ティッシュで滲む汗を拭うとそっと体をずらす。  その向こうには簡易なベッドでうずくまるようにして眠るかなともの姿がある。  腕に抱えきれないようなサイズのクマのぬいぐるみを胸に抱いて、健やかな寝顔だ。 「君がクマに会えるなんて言うから、大騒動だよ」 「被る必要ありましたか?」 「…………」  東条に言われ、瀬能はちょっと手の中のクマの仮面に目を遣ってから肩を竦め、お役御免とばかりに隣に放り出す。  画面へと向き直った瀬能は、髪は手櫛で整えた程度の乱れたままだったが、その表情は真面目だ。   「では何から聞こうか? それとも聞くかい」 「……いえ、話します」  どちらがより問題を解決しやすいかを一瞬考えたが、何をどうやっても変わらないのだと腹をくくり、東条は「運命を番にしました」と硬い調子で口を開いた。   「……ことの顛末はそれくらいでしょうか」 「同意不同意はこの際、置いておくとしておめでとうでいいのかな」  また微妙な尋ね方をする……と東条は顔をしかめながら「どうでしょうか」と返した。 「番がいるのに他のアルファと番うことなどできるのでしょうか」 「うん?」  瀬能の返事は「何をバカなことを言っているんだ?」と言っているのがはっきりとわかる。  一度、αと番ったΩは他のαを受け入れない。  そんな常識的なことを東条が知らないではないだろうし……と、瀬能は訝しむ顔を画面の向こうでしてみせる。  現代において大勢のΩを番にすることに対して言及せずに、Ωとのあり方だけについて問うならば東条は深い理解を持っていると瀬能は思っていた。 「そんなことがないのはよくわかっているだろう?」    そんな東条からの言葉をはっきり否定する。  

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