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この恋は不幸でしかない 45

「オメガの項は一度しか噛めない」  αとΩの間で交わされる体に刻まれる契約は取り返しがつかない。  そんなわかり切ったことを繰り返すことになり、瀬能は不毛な時間に溜息を吐く。 「それで?」 「……いえ、疑問に思っただけです」  穂垂の項に噛み痕などない。  大伯父にそんな機会は訪れなかった。  東条はよくわかっているはずなのに、どうしてだか拭いきれない不快感に曖昧な表情をした。  自分には手に入れることができない存在だと思っていた穂垂が、腕の中に堕ちてきたというのに手放しで喜べない。  そんな感情がこびりついて離れなかった。 「それで? この話は続く?」  少しつっけんどんな様子の言葉は、瀬能が子供の相手で疲れたからだろうか。 「いえ、本題に入りましょう」 「かなともくんのことだけれどね、まぁ僕ではなんとも。通り一辺倒な話だけならできるけれど、君がいいと言うなら専門の人間に診てもらうべきだろうね」  東条は、バース関連の話をさせた時のようにもっとはっきりとした返事や対策が聞けるものだと思っていただけに、目を瞬かせる。 「打撲痕に体重のこと、それから言動……とはあるんだけどねぇ」  瀬能はふい と視線を逸らしてしまう。  何か考えているのか指先同士を合わせてぐにぐにと力を込めたり緩めたりを繰り返す。 「虐待とみるべきでは」 「だから、判断は君に任せるよ」 「瀬能先生だからお任せしたのですが?」 「僕、バース医だよ?」    わかり切ったことを返されて東条は不愉快そうに顔をしかめた。  画面の向こうにいる初老を過ぎた男がバース医の権威であることは十二分に理解していることで、今更改めて言われるようなことでもない。 「餅は餅屋だろう?」 「そんな簡単な話ではないでしょう?」 「ふむ、じゃあバース医として言わせてもらうと、アルファとベータの間に生まれたベータの子供は虐待を受けやすい。これは統計も取られていて他のパターンの三倍以上だ。なぜならどうしても優秀なアルファを求めてしまう傾向があるからで、両親は潜在的に優れている子供を欲するからだ」 「私はかなともがベータでも気になりません」  東条は、最終的に人の手に収まらない領域があるとよくわかっていた。  幾ら望んだとはいえすべてが思い通りになるわけではないし、思いの強さでそれらを克服できるとは思っていない。 「君は、ね」  からかうのではなく、意地の悪そうな笑みを浮かべて瀬能は画面を掻くようなふりをした。  自分はそうでも他はそうではない。  ましてやかなともの母親はそれが原因で微妙な立場にあるのは確かだった。

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