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この恋は不幸でしかない 46

 本来、東条の家ではΩの妻、Ωの愛人は認められてはいてもβの愛人の存在は認められていない。  二人の間に儲けられたかなともがβではなくαであったならばまた立場は違っただろう、けれどバース性は変えようがない。  αを産めなかった彼女に、その次のチャンスを与えるほど東条の家は優しくはなかった。 「……次の子が欲しいために、かなともをぞんざいに扱った と?」 「次の子を儲けるのに、先の子は邪魔だからね。自然なら殺されているだろ? 子供がいればそちらの育成に体力を割くことになる、そうすれば可能性を持つ第二子の誕生が遠のくだろう? そうなれば、捨てられる確率は段違いに上がっていく」 「捨てるような男じゃない!」 「君はね」  先ほども言われた言葉に東条は唇を引き結んで視線を逸らすしかできない。  図星を指されると言葉がうまく紡げないのは、人間の共通項だ。 「子供を儲けるというのは自分の生活水準を引き下げることだ。これは経済だけの話じゃない、自分が食べる食事の時間、自分がゆったりできる風呂の時間、一人で考え事をする時間。美容に費やす時間でもいい、そういったもの削りながら子供を育てていく。それこそ身も心もすり減らしながら。今ですらそんな状態なのに、更に生活水準を下げることを良しと思うかな?」  瀬能はぱっとおどけるように掌を広げる。 「勿論! 二人目を望むご家庭は多い。けれど子供が原因で夫婦仲がぎくしゃくしていたらどうかな?」 「……」 「子作りに積極的でない相手に積極性を取り戻してもらうには、原因を取り除けばいい」    喋りながら瀬能は傍らの書類を指先で弄び、簡単な舟を折り上げてかざしてみせた。 「神様ですら都合の悪い子は舟に乗せてなかったことにしたんだ。人がそう思うのもおかしい話じゃないだろう?」 「……だから、かなともは、虐待されているということでは」 「…………」  ところが瀬能は先ほどの様子とは打って変わって、唇を引き結んで舟を見上げたまま返事をしない。  せめて「うん」と言ってくれればこのままかなともは虐待を受けていた と対応もできるというのに…… 「まずはさぁ、君がかなともくんと話し合うのが先じゃない? 仮に虐待されていたとしても、突然母親から引き離されてちょっと不安定だったよ? 君のことも必死に探していたし」 「…………」 「まぁお仕事だよって言葉でおとなしくなる辺り……哀れだねぇ」  舟を指先で弄びながら瀬能は背後のかなともを振り返った。  赤みの強い髪は東条のものとは違う、顔立ちも母親似だと言われてしまえばそれだけだが、東条には似ていない。

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