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この恋は不幸でしかない 50

「ぅ……んっ、だ、めだ」  散々愛されたせいか、敏感になっている部分はシーツに触れただけでもゾクゾクとした快感を産む。 「っ、だー……め、だめだめ!」  このまま彼の香りの残るここで甘い余韻に浸りたかったが、そう言うわけにもいかない。  穂垂は熱を持て余した体をしぶしぶ起こし、飴色のドアに目を遣った。  朝目覚めると彼はいない、けれど代わりに…… 「……おはようございます  東条さん」  朝の陽ざしが柔らかく満たすリビングで、ゆったりとソファーに腰かけてコーヒーを飲んでいた東条が顔を上げた。  手元からタブレットを離すと、「おはよう」とよく響く声で挨拶をしてくる。  穂垂は引き攣りそうになる顔で笑顔を作りながら、慣れないやりとりに後ずさりそうになる。  自分を心配するのはわかってはいるけれど、入れ替わりに又甥である東条に様子を見させるのは非常に居心地が悪い……と、彼に言い出せないまま胸の中でごちた。  そもそも、そんな面倒を見てもらうような年ではないし、むしろ保育士として面倒を見る側だったのに。  とはいえ、その保育士の職も今は休職中だから、偉そうなことは言えないんだ と自分を納得させる。 「今朝は? 何か喉を通りそう?」 「今日……は……果物とヨーグルトなら……」  食べられそうな気がする……と自分の胸に手を当てて考える。  果物も酸味のあるものならば他の物よりは口にしやすい。  落ち着いたとはいえ、つわりがピークの時は水すらも受け付けなかったことに比べたら、食べられるようになった方だった。    よほどでない限りは大丈夫だと医者に言われてはいたが、彼との間に授かった子供に何かあってはという思いもあり、穂垂は最近になってやっと手放しで妊娠を喜べるようになっていた。 「あの……今日も、お仕事なんでしょうか?」 「ええ」  食卓に果物を乗せた皿を並べながら東条はさらりと返事をする。 「……お忙しい ん、ですね」  もうとっくに定年なのではという疑問も、家の仕事だからと言われてしまうとそれ以上聞きようがなかった。  目の前に置かれたオレンジの香りにほっと胸を撫で下ろしながら、正面に座る東条に目を遣る。 「あの……東条さんもお忙しいでしょうし、自分の面倒は自分でみられますから。こやって甘えておいて……こんなことをいうのは心苦しいんですが、可能なら彼に傍についていて欲しいんです」  それでなくとも妊娠初期に他のαのフェロモンはよくなかったはず……と、穂垂は精いっぱいの勇気を奮った。  彼には彼の仕事があるだろうけれど、番との時間を持てないほど忙しいのは受け入れられない と。

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