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この恋は不幸でしかない 53
発達や興味の先は個々人で千差万別とは言うけれど、それでもかなともの様子はまるで息を潜めているように見える。
「お昼ご飯食べたら、少しお昼寝しようね」
「 わん」
「わん?」
ご飯 と聞いた途端、かなともがテーブルに駆け寄ろうとしたのを東条が抱き上げた。
「かなとも! お父さん、かなとものために椅子を選んだんだ。これに座って一緒に食事しよう」
「 ぅ?」
「お母さんやお父さん、ほたるせんせいみたいに、テーブルで食べるんだ」
その言葉にかなともは視線を下げて、テーブルの下を指さす。
「あの……どういうことでしょうか?」
「後で話します」
東条は短く鋭く返すと、かなともを新しいキッズチェアへと座らせる。
「今度からはここに座ろうな」
「ぅ……ごは 、ここ。めー」
バンバンとテーブルを叩く姿は、拒絶しているように見えた。
穂垂は、食事が食べたくないだけなのかと様子を窺っていたが、二人のやりとりでかなともが椅子ではなくテーブルの下で食べたがっているんだと理解する。
「……」
子供の気まぐれで、いつもとは違うところで食事がしたい、もしくは絵本と同じような場所で食事をする というのは聞く話ではあったけれど、かなともはそんな雰囲気ではなかった。
ここでいいよ と優しく言い聞かせる東条と、癇癪のように泣いて降りようとするかなともと……
座る場所に揉めた昼食はいざ食べようとする際にも一波乱あり、かなともが皿に口をつけて食べようとしたりして随分と騒がしいものとなった。
騙し騙しかなともに食事を食べさせ、終わった頃には心がぐったりと消耗しているのを感じるほどだ。
「……かなともくんは、たけおみくんとは随分と雰囲気が違いますね」
「…………」
東条は昼寝に入ったかなともを確認してから、そっと部屋の扉を閉じて穂垂にソファーへ座るように促した。
「温かいものを淹れよう」
そう言うと東条はさっさとキッチンに入り、手際よく準備を始める。
本来なら手伝いに行くべきなのだろうけれど、穂垂は久々に子供と接して感じた気怠さに抗えずにソファーへと背中を預けた。
つい最近まで、もっとたくさんの子供ややんちゃな子供と接していたというのに、数時間一緒にいるだけでくたくただった。
「足のむくみは?」
「だ、大丈夫です!」
「ラズベリーリーフのお茶にしたが、飲めそうか?」
「はい! なんでも、大丈夫、飲めますから……お気遣いなく」
ことん と目の前に置かれたマグカップへと視線を落とす。
顔を上げると真正面から見てしまうことになるから、気まずい思いをしたくなくてこの体勢になってしまう。
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