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この恋は不幸でしかない 54 

「あの……言いにくいことかもしませんが、かなともくんのことをもう少し聞かせていただけますか?」 「……穂垂先生はあの子のことをどう思う?」  質問に質問で返される居心地の悪さに怯みながら、穂垂は午前中から昼食時にかけてのかなともの様子を思い出す。  聞いていた年齢にしては体が小さいように感じる。  言葉は拙く、お喋りというわけではなく、むしろ静かだ。  体を動かす遊びに興味は薄く、じっと動かない……もしくは音を立てない遊びをしようとする。  けれど、その遊びが好きかどうかは判断しにくかった。  東条から離れたがらないけれど、東条が強く言えば言うことを聞く。  穂垂には返事はしてくれるけれど、認識してもらえているかどうかは微妙なところだった。 「……服を、体を見せてもらっても?」 「構わないが、傷はもう消えている」  東条の物言いにひゅ と穂垂の喉が鳴った。  東条に詰め寄ろうとソファーから飛び上がったところで、かなともが寝ていることを思い出してぐっと言葉を飲み込んだ。 「奥様が……? それとも  」 「かなともの母親だ」 「……?」  気になる言い方だったと思いつつも、そんな些末なことに構ってはいられなかった。 「児相に連絡は?」 「病院には見せましたし、かなともの母親とは話がついています」 「話……?」 「ええ、かなともは私が引き取りました」 「……じゃあ、たけおみくんは?」  あの弾けるような笑顔と、時折大人びた言動を使おうとする姿を懐かしく思って目を細める。  ほんの数か月で子供は大きく成長するのだから、今のたけおみは穂垂の記憶の中よりももっと大きくなっているはずだった。 「たけおみくんも引き取って……?」  かなともに虐待を行っていたのならば、なんらかの形でたけおみも被害を受けているのかもしれない。  保育園ではそんな大事なことに気づけなかったんだ と穂垂は後悔に顔を曇らせる。 「たけおみとかなともの母は違うので」 「……あ、……えと……はい」  結婚相手と番は別だと考える人が一定数いるのはわかっていただけに、穂垂はなんとか言葉を飲み込んだ。  何かしら理由をつける人になると、そこにパートナーシップの相手も付け加えて……という人もいると聞く。  一人しか番を持てないΩと違い、αは幾人でも番を持てるのだからそういうこともあるんだろう と、穂垂は理解に努めようとした。  けれど、もし彼に他の番がいて自分以外へと愛を囁いていたらと思うと落ち着かない気分になる。  愛妻家だとばかり思っていた東条の、見てはいけなかった側面を見た気がして気まずい思いを抱えながらゆっくりとお茶を飲み下す。

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