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この恋は不幸でしかない 57

 けれど、穂垂は番を求めても東条を求めることはなく、大きくなった胎宮に押された前立腺によって欲情していても、呼ぶのは大伯父だった。 「……っ」  甘やかに番を求めるのに、その指先は東条ではなく亡霊を捕まえる。  東条はあの日、睨みつけるような視線を送ってきた大伯父から逃れられず、穂垂も絡めとられたままだった。  どこまでが大伯父の策略かは知ることはできなかったが、それでもこの状況の端に大伯父の姿を感じずにはいられず、東条は小さくした体を更に小さくしようとぎゅっと力を込める。  耳も目も塞いで何も考えられなくなった先で、この状況が好転している世界があるのではなかろうか……と、わずかな望みをかけてゆっくりと目を開く。  その先にあるのは、先程から目盛一つ分だけ動いた時計だった。  緩慢とした時間の経過に絶望を感じながら、東条はそれでも何か手立てはないのかと頭を抱え込んだ。  夕飯時、かなともはどうするかと息を詰めてみていたが、穂垂の促しで素直に子供用の椅子に腰を落ち着けた。  少し居心地悪そうにして東条の様子を見ているようだったが、穂垂が根気強く褒め続けると、ちょっと得意げな様子でにこりと笑う。 「かなともくん、お口あーん」  そう言うと、小さな子供用のスプーンでかなともの口元に小さく切ったハンバーグを添える。  幼い子供にはちょうどいいサイズのそれに、かなともはぱくんと食らいついて、嬉しそうににこ と笑顔を零した。 「美味しい?」 「ぁい」  ちょんちょん と口元を拭われながら返事をする姿に、東条は胸を撫で下ろしてほっと息を吐く。  憂いのない嬉し気な表情を見ていると、どうなるのかと心配だとは思っていたがかなともを連れてきてよかったのかもしれない。  これで穂垂の方にもいい影響を与えてくれると手放しで喜べるのだが……と、思いながら東条は穂垂に「代わるよ」と声をかける。 「かなとも、お父さんからも食べてくれるかな?」 「  ぁ、ぃ」 「あれ、ちょっと声が小さいよ?」  かなともはもじ……と少し考え込む様子を見せてから、「あい」とはっきりと言う。  その様子は不満を訴えているようで……東条は思わず穂垂とかなともを見比べた。  物腰の柔らかさからか、穂垂は園でも人気で……人にあまり懐かないたけおみですらよく「せんせいが……」と話していたのだから、子供に好かれる才能があるのかもしれない。 「東条さんは先に食事を終えられてください、僕が面倒見ていますから」 「そうしたら料理が冷めるだろう?」  

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