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この恋は不幸でしかない 61

「家に帰ってないって聞いてるよ?」 「……帰ってはいます」 「昼にちょっと顔出すのは帰るとは言わないよ。奥さんと息子さんと、家族団らんしたのはいつだい?」  カツ と、東条は天板を爪で叩いた。  何か言い返す言葉を探してみるも、瀬能の言葉がすべてなのだから何も返事できずに押し黙る。  妻の希望通り、妻とたけおみを第一に尊重しながら、家訓に従って条件に納得したΩを番にしてきた。  彼女ら彼らの希望を可能な限り叶え不満のない生活を送らせることに、東条はどこか使命めいた思いを持っていたために、穂垂一人へかかりきりになってしまっている現状を突きつけられてしまうと顔をしかめるしかなくなる。  実際、穂垂の傍に居たいがために、発情期を迎えた番の元へ行けないということがあった。  発情期のΩの元へ一度行くと早くて三日、遅くて一週間は穂垂の元へと帰ることができない、そう考えてしまうと、大切な番だと思っていたその相手と過ごすことに嫌悪まで感じてくる。  これは東条の本来のライフスタイルから考えるととんでもないことで、沢山のΩを抱えなければならない家訓を重んじるならば許されない綻びでもあるのだが…… 「    それでも、彼と共にいることが……嬉しいんです……」  自分がこれまで歩んできた人生をひっくり返してなお、穂垂の存在は自分にとって喜びなのだ と、頭を抱えるようにして呻く。   「……彼を遺して逝かなくてはならなかった大伯父の無念さが、どれほどのものだったか……よくわかります」 「まぁだからって、君の事情は子供には関係ないよね?」  突き放すような物言いをしてから、瀬能は大きく一つ溜息を吐いた。 「番だから、運命だからを理由に今までの人間関係をないがしろにするのは違うと思うけどね」 「貴方は知らないからだと言いました!」  知らずに叩いてしまった天板が派手な音を響かせながら微かに震える。さすがにその憤りに驚いたのか、瀬能は少しだけ窺うような表情をしてから肩をすくめてみせた。 「とにもかくにも、君も緑川くんも、そして奥方も、バース性云々の前に一人の人間だということを思い出すべきだね」 「  っ」 「尊重するべきは性別ではないだろう?」  はく と開いた口を震わせて、東条は何も言えないままに背もたれに体重を預ける。  不安定に軋みを立てた椅子の中で縮こまるように項垂れて、東条は理解できても頷ききれない苦しさに唇を噛んだ。  瀬能の告げる言葉は正しくて、しかも自分だってそれが正しいと理性では十分理解していた。

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