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この恋は不幸でしかない 62
けれど、それでいいんだと足首を掴んで引き戻すような感情があるのも確かだった。
────番を優先するべきだ
そんな声がわんわんと脳味噌の中にこだましているのを、振り払うことができなかった。
◇ ◇ ◇
自分が起きるよりも先に東条がかなともを起こして朝食を食べさせてくれていることに、穂垂は感謝をしていたが同時にたけおみのことを思って胸を痛めていた。
時折、わずかな時間出かけることはあっても、大伯父が帰ってくるまで東条はここに入りびたりで……
そうなると、たけおみの父は常に不在状態なのは考えなくてもわかることだ。
幾ら大伯父に頼まれているのだとしても、自分自身の家庭への影響を危ぶむほど優先させてはいけない と、穂垂は意を決する。
「東条さん、奥様が心配なさってはいませんか?」
これまでも、そう言葉を告げていたけれど、結局話がうやむやになってしまっていた。
今回はそうならないように……と、気合を入れて声をかける。
「……心配、ですか?」
どこかいつもの精彩さを欠いた東条は、かなともに食事を与える手を止めて繰り返す。
少し翳りを滲ませる目元は疲れているようで……
「僕の体も落ち着いています……し、彼もいっぱいフェロモンを残してくれているので大丈夫です。一度、しっかりおうちに帰られて…… 」
穂垂は一瞬、言葉に詰まった。
引き合いに出すのは憚られたが、気にかかっているのも事実だ。
「かなともくんだけでなく、たけおみくんにも声をかけてあげるべきです。お父さんが大好きな子ですから、きっと寂しがっています」
「貴方は?」
「え?」
「貴方は寂しがっては?」
思ってもいなかった返しに、穂垂は返事に躊躇した。
いつも同じ空間にいた人間がいなくなれば、それはただ単純に寂しいと思うだろう と。
好意があるなしに関わらず、人の存在感というものは考えるよりも大きい。
彼の又甥ということもあって、まったくの赤の他人よりは情の傾け方が違うのは明らかだった。
「さび、しい、です……よ?」
でも自分には番がいる。
番さえいればいい。
番がいてくれるのに、東条は必要だろうか?
「とても、寂しいです」
口からするりと出た言葉は、穂垂自身が驚いてしまうほどはっきりとした言葉だった。
今いるこのリビングに、東条の姿がなかったら……?
仕事をするための書斎に探しに行くだろう。
そして、そこに居なければトイレ、風呂と探すに違いなかった。
それで……────どこにもいなかったら?
「っ! で、でも。たけおみくんも気になります!」
震えそうになった体を鞭打つように、穂垂はさっと大きな声を出す。
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