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この恋は不幸でしかない 63
穂垂は東条の瞳に落胆の色が浮かぶのを見つけ、先程の自分の言葉に何か彼を失望させるものがあったのだと知る。
けれど、それが何かわからないままで……
「かなともくん、ごはんをたべおわったら、ほたるせんせいとあそぼうか」
しこりのように残るそれを見ないために急いでかなともに声をかけた。
髪と同じように少し赤く見える睫毛のついた目をぱちぱちと瞬かせ、かなともはまず父親の顔色を窺う。
「……」
不安を滲ませた瞳でじっと東条を見つめ、小さくこくりと頷く。それは自分の意思で というよりも親の顔色を見ての返事だ。
いじらしい様子は痛々しくもあり……
「ご自身のためにも、東条さんは東条さんのご家庭を大事にしてください」
「…………」
東条はぐっと眉根を寄せると、うっすらとクマのできた目元を手で覆う。
泣いている? と穂垂は心臓が跳ね上がった胸を押さえたが、声をかける前に「わかった」と声が返った。
「かなとも。お父さんは、ちょっと出かけなくちゃならなくなったから、穂垂先生とお留守番できるな?」
「…………ぁい」
穂垂からではなく、父親から言われたからかかなともは素直に頷いてうつむいてしまった。
玄関まで送りに出ると、かなともは穂垂と東条の顔を見比べてうなだれ、お腹の位置で小さく手を振る。
「あとでこうえんに、あそびにいこうね」
うつむく顔を覗き込み、穂垂は元気づけようとそう声をかけた。
これ以上項垂れようがないと思っていたかなともの頭がわずかに上下に動く。
もじもじとした手は東条の服を引っ張りたいのを堪えるようにわずかに動いただけだった。
その様子に東条は後ろ髪を引かれた様子ではあったが、穂垂の「きちんとお預かりしますから」の言葉に背中を押されるようにドアノブに手をかける。
「その……無理はするな。外に行く場合は人をつけるから 」
「どこの貴族なんですか!」
穂垂はぷっと吹き出すように笑い、しかめ面のままの東条を促すように手を振った。
「お気をつけて」
「ああ、……行ってくる」
「かなともくん、おとうさんに『いってらっしゃい』って」
「い ら、 ん゛っん゛ー……」
唇が震えて、大きな雫がぼろりと落ちるまでが限界だった。
かなともはくしゃりと顔を歪めるとわぁ と火がついたように泣き出し、東条に向けて手を伸ばそうとする。
けれど一瞬早く伸ばされた穂垂の腕がかなともを抱き締め……
「大丈夫ですから、行ってください」
保育園でも親の後追いをする子供は大勢いて、引き離すことに罪悪感がないわけではなかったけれど、ぐずぐずとしていては子供はいつまで経っても泣き続けるだけだ。
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