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この恋は不幸でしかない 70
後日、東条の妻から正式に「追い詰めてしまって申し訳なかった」と謝罪されたが穂垂は曖昧に返すしかできなかった。
自分自身が東条の子供を宿していることは確かだし、認めているとはいってもそのことで東条の家庭に波風を立ててしまっていることは確かだ。
本来なら謝罪するのは自分の方で、できるならばすべてを清算して贖罪に人生を捧げるべきなのだろうけれど……
……とん と腹の中で動く感触がした。
それは穂垂がこのまま何食わぬ顔をして東条の傍に居ていいのかに悩んでいた時だった。
このまま、お腹の子供を生まれなかったことにするのか、生まれた子供を東条が引き取って自分は身を引くのか。
禍根を残さないために自分がしなければならない一番善良な行動を、穂垂はよく理解していた。
まず番解消をして、東条の用意したマンションから出ていく、それからどこか遠くの土地に行って、そこでひっそりと暮らす。
もちろん……堕胎して……
けれど だ。
背中を押す……という言葉ではなかったけれど、腹を内側から押された時、その胎の中で確かに命を育んでいるのだとはっきり穂垂は感じ取ることができた。
いつも楽しく、幸せの塊と言っても過言ではない小さな子供たちが、嬉しそうに笑顔で走り回る姿を見て来た穂垂に、自分自身を主張する動きを無視することなんてできない。
まだ腕と言っていいのかわからない手足を伸ばして、懸命にここにいるのだと声を上げる存在を……
例え望んで授かった存在ではなくとも、穂垂は邪険にしなかったし、愛するのは当然だと思っていた。
「この子 を、無事に産んであげたい」
Ωの男型の妊娠は不安定で、流産の危険性も出産時に命を落とすことも、他の性別よりもはるかに高い。
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