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この恋は不幸でしかない 71
東条ならば、それらの確率を少しでも軽減できる環境を用意できるのだとわかっているから……
「穂垂? 口に合わないか? まだつわりが?」
目の前で共に食事をしようとしているαは、優しく、経済力もある。東条が告げたように穂垂自身も運命の相手なのだろうと思えるくらい、傍にいて違和感がなく落ち着く。
たった一つ、唯一になれないという部分を除けば、何も文句はなかった。
「あ……いえ、かなともくんはその後どうしているかと気にかかって……」
穂垂は考え込んでいたことではなく、気にかかっていたことを返事として口に出した。
あの騒動の後、かなともは妊夫に子供の面倒をみさせるなんて と怒る東条の妻に連れられて行き……たけおみと仲良く暮らしているらしい。
「ああ、服のサイズが一つ上がったそうだ」
自分自身にしても、かなともにしても、目の上のたんこぶと言ってもいいだろうに「正妻の役目ですから」の一言で彼女はそのすべてを受け入れた。
つんと真っ直ぐ前を向く姿は、人間味がなく冷たいという印象を抱いてしまいそうになるがそうじゃない。彼女は発情期に放り出された東条の他の番のために動き、倒れた穂垂のために東条を呼び、医者を呼んだ。
そして、それだけではなく、βなために受け入れることができないという親類を突っぱね、かなともも東条の息子として引き取ってしまった。
『弱いものいじめも、目下の人間を放置するのも、私にはありえないことなのよ。ただし、馴れ合う気はないわ、貴方も気まずいでしょう』
Ωだというのに、家庭を持ち、仕事を持つ彼女のプライドは、穂垂には眩しく思えるほどだった。
いつも幼い頃からの刷り込みで、Ωはまともな職に就くのは難しく、どこの誰ともわからない人間に犯され、孕む……そんな存在だと思っていただけに、百合のように真っ直立つ彼女は美しかった。
「ところで、そこの花は?」
「あ……百合が綺麗だったから、花束にしてもらったんです」
真っ白く優美な形の百合をメインに、可愛らしい花が周りを彩っている花束は自宅用には見えなかった。
「もし、奥様がお嫌でなければお渡ししてもらえませんか?」
「え?」
東条は驚いたような顔をして穂垂と花束を交互に眺めて……
「お詫び……にもならないのはわかっているんですけど、東条さん、ずっとこちらにいらっしゃるから」
「それはっ話し合ったっていっただろ? もういつ生まれてもおかしくないんだから、番が傍に居た方がいいからって」
「それはこちらの事情です。奥様や、たけおみくん、かなともくんが寂しい思いをしているのは別です」
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