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この恋は不幸でしかない 72
穂垂は大きな花束に視線を遣って、それから東条に向けて苦笑いを見せる。
「だから、これはご機嫌伺いの花束です」
「…………そうか。明日、散歩がてら会いに行ってみようか? たけおみ達も穂垂の顔を見たいだろうし、少し体を動かさないとなんだろう?」
「はい、体力が落ちてしまいますから」
そう言うと、穂垂は女性の妊婦ほどではないが、はっきりと膨れ上がった腹に優しく微笑みかけた。
寒くないように とマフラーを巻かれ、用意された手袋もはめる。
カイロも持つようにと言われて……そこにさらに一枚コートを足そうとされて、穂垂はさすがに断った。
このままでは雪だるまのように丸くなってしまうのが目に見えていたからだ。
外は寒いとはいっても南極や北極ではないのだから……と断るが、ふかふかの分厚いコートだけは頑として譲らなかったために、穂垂はやっぱり雪だるまになってしまっていた。
有難いと思うも、スマートにトレンチコートを着こなしている東条の隣に立つのは、引け目を感じてしまう。
「もっと温かなホテルのラウンジではなくてよかったのか?」
「も、もちろんです……」
大きな花束とはいえ、街の小さな花屋さんで買った片手でも持てるようなサイズだ。
それを持って、東条が言うホテルに向かう勇気は穂垂にはなかった。
結果、近くの子供の入れるカフェで落ち合うことになっている。
自分達が待つつもりで向かうと、もう三人がすでに店内にいて楽しそうにパフェを食べているようだった。
かなともは穂垂に出会った頃とは違い、子供らしいふっくらとした頬を取り戻したようで、パフェを頬張っている。
サクランボを食べて上手に種を吐き出す姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「 二人とも、そんな様子で夕飯は食べられるのか?」
「「お父さん」」
わっと上がった言葉に東条が嬉しそうに微笑んで……何事かを言い合う姿はどこからどう見ても親子だった。
父と、母と、子供と……そこまで考えて、じゃあそこに自分が入ればどうなるのかと考え、穂垂は足がすくんだ。
なんだか自分が異物のように思えて、すがるようにお腹に手を這わせる。
「穂垂さん、お元気そうね」
「あっ……はい、おかげさまで」
急にこちらに向き直られて、穂垂は慌てて頭を下げた。
突然子供が二人に増えたというのに彼女は相変わらず美しいまま、腕の中の百合を思わせるようなたたずまいだ。
保育士と保護者として顔を合わせていた時は感じなかったけれど、同じαの番として向き合うと自分が野暮ったく思えてもぞりと体を揺すった。
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