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この恋は不幸でしかない 74

「結婚前に、そういうことは随分とすり合わせたのよ」 「すり合わせ……ですか?」 「妻として協力するのだから夫として協力しなさいって。歩み寄りがないのなら他の番を認めないって」  穂垂はぽかん と美しい横顔を見遣った。  Ωとして生まれて、どうやっても劣等な性別として様々なことを諦めたり、遠慮したりして生きてきた穂垂にとって、結婚相手とはいえαに対してそうやってはっきりと言える姿は驚きだった。 「貴方も最初に言えるだけ言いなさい。嫌なこと、したいこと、願うこと」  始まりはどうであれ、東条は穂垂の嫌がることはしないし、危なくない限りはやりたいこともとめない、願いも常識的な範囲なら幾らでも叶えてくれるだろう確信だってある。  けれど……   「……東条さんの唯一になりたいと思ったことはありませんか?」    自分がいる以上、望めないそれを問いかけると、彼女は一度だけゆっくり瞬きをした。 「私は、貴方のように東条と運命というわけではないし、かなともの母のように恋愛をしたわけでもなくて   」  緩く巻くかなともの髪を撫でながら喋る彼女は、話しながら一つ一つを確認しているようだった。 「男女の仲というには穏やかな感情しか持ってはいないけれど、それでも、東条を支えようと思ってここにいるわ。東条が複数の番を持つこともすべては理由のあることだと理解しているから」  わずかに切られた言葉の間は、自分自身への決意のようにも見える。 「私を尊重してくれる限り、私自身の役を守って、東条の唯一であろうとは思わないわ。貴方は、東条の唯一でありたいの?」 「えっ 僕、僕……は、東条さんというよりは……番の唯一でありたいとは思います」  ただ、心から望む相手とは二度と触れ合えなくて……  穂垂は彼のことを思い出す度に泣きそうになって、慌てて首を振った。 「でも、叶わないこともわかっています」 「……」 「今はこの子がいるから傍に居てくれるけれど、生まれたらそうもいかないってこともきちんと理解してます。だからって、他の番に嫉妬するとはなくて……」  穂垂は言葉を探すように視線をさまよわせ、宝石のような果物が乗っているパフェに目を遣った。  みずみずしくて、張りがあって、見ただけで美味しいと確信させるような果物が乗ったそれは、子供たちが食べたために少し形が崩れてしまっている。  名前の通りの完璧さが少し変わってしまっても、それでも美味しいのは変わりない。  ぱくりとまた一口頬張るかなともに微笑んで、見つけた言葉を口に乗せた。

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