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落ち穂拾い的な 買い物デート…ではない 2

「よく買い物を許してもらえたね」  息子が続いての娘だったからか、礼ちゃんのお父さんの溺愛はすさまじくて……例えそれが必要なものだとしても、こうして歩いて買い物なんて考えられなかった。  外商を呼ぶなり店を貸切るなりしてしまうだろう状況で、礼ちゃんが街中を歩いているって言うのが不思議だった。   「私ももう高校生ですから、一人でお買い物くらいしたいです! って言ってみました!」  むん! と気合を入れてみせるけれど…… 「わたくしもおりますよ」  そう声が上がる。  礼ちゃんの後ろからレースの日傘を傾ける男は、不服そうにつんと唇を尖らせていた。  少し暑くなり始めてきているというのに隙のないブラックスーツにしっかりと整えられた頭髪、オレよりも……礼ちゃんよりもずいぶんと高い身長。  一見しなくとも輩かな? と思わせるこの人はタマキさんと言って、礼ちゃんの護衛だ。  正確には護衛の一人 かな。 「先に行かれては困ります」 「だってタマキはついてきてくれるでしょう?」  当然のこととばかりに礼ちゃんはきょとんとして答える。 「それじゃ一人で買い物にはなりませんよ」 「あ!」  礼ちゃんは初めて気づいたとばかりにレースの手袋をはめた手を頬にあてて、大げさに驚いてみせた。 「久しぶりだね、六華くん」 「お久しぶりです……」  一応オレに声をかけてくれたけれど、タマキさんはむっつりとした顔だ。礼ちゃんに対する時との態度の違いが酷くって、さすがにちょっとへこむ。  とはいえα同士だからしかたないのかもしれない。  Ωを挟むとαなんてこんなもん……なんだと思う。   「お兄さま、臨海学校に持って行った方がいいものはありますか?」  少し不安そうに尋ねてくる礼ちゃんに思わず「消臭剤」と答えてしまって慌てて手を振った。 「あ、えっと、そうだなー……持って行くものは学校から言われてるのでいいと思うけど、夜は絶対に外に出ないようにね」 「夜?」 「うん、抜け出した人を狙って……お化けが出るから!」 「ひゃっ」  ぱっとおどけて見せたけれど、礼ちゃんはお化けの言葉に飛び上がってタマキさんにしがみついている。  ちょっと怖がらせちゃったなって思うけれど、緑地公園の奥に合宿所があることもあって、合宿から抜け出す子達を狙って質の悪い奴らが潜んでいることもあるから、そこは十分に注意して欲しいんだ。  結果によっては、お化けの方がよかったって思えるくらい、生きている人間の方が怖いから。  とはいえ、怖がらせちゃうのは本意じゃないから…… 「お化けっての冗談だけど、ちょっと建物が古くて怖いかも?」  趣があるって言いたいけれど、アレはただただ古いだけの建物だ。

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