325 / 391

落ち穂拾い的な 買い物デート…ではない 3

 オレは皆でわいわいしてたら気にならなかったけど、お嬢様な礼ちゃんにはちょっと居心地が悪いかもしれない。  食堂のシミなんて、人型だから怖がる子は怖がるだろうし。 「ああ、それなら問題ありませんよ。社長が建て替えられましたから」 「ふぇ?」 「お嬢が泊まるにはいささか問題がありそうでしたので、進言させていただきました」 「そしたら建て直しちゃったの?」 「はい。お嬢の臨海学校に合わせて完成いたしますので、セキュリティーばっちりの清潔な部屋で過ごしていただけます」  そうだった。  礼ちゃんのお父さんはこういう人だった。    呆れ返っていると、タマキさんはそっと身を傾けて口元を手で覆ってオレにだけ聞こえるように「きちんとお祓いもされたそうです」と肝心のことも教えてくれた。  なら安心だ。   「くれぐれも暗い緑地公園の方にはいかないようにね!」  オレ自身もそこで誘拐されそうになったこともあったし、昼間でも薄暗いから犯罪の温床になりそうなんだけど……海風を和らげるためってのもあるからなかなかだよね。  あの時……オレが臨海学校に行った際にはシュンが危ない目に遭った。  もう誰もそんな目に遭って欲しくないから、早く犯人が捕まって欲しいな。 「ではお嬢、行きましょうか?」 「あ……お兄さま、この後のご予定は? もしよければご一緒していただけたら……」  可愛い可愛い妹分の超絶美少女に誘われて、二つ返事でついていきたかったけれど、今日はシュンと約束してるしちょっと勝負してみようかって気になってるからー……  どん!  吹っ飛ばされそうな勢いで飛びつかれて、踏ん張れないままよろりと倒れ込む。 「こんにちはぁ! 六華くんのお知り合いですかー⁉」  ぐぎって音を立てた腰を押さえながら、オレに飛びつくというか……突き飛ばしてきたシュンに向き直る。  ダメージを受けているオレなんてそっちのけで、シュンの視線はタマキさんに真っ直ぐ向いていて…… 「僕! 六華くんの親友の釘宮って言います!」  余所行きだなって感じる声音で自己紹介して、ぐいぐいとタマキさんに迫るシュンの顔は、ほっぺは真っ赤だし目はうるうるだ。  恋する乙女のように指を組んで、キラキラって効果音がしそうな熱い視線を送って…… 「あ、の、シュン?」  最近ちょっとこっちに向いてきてるんじゃないかなって思っていたシュンの視線は、あっと言う間にタマキさんに持って行かれてしまったようで。  結局、シュンの押し押しの行動のおかげで四人で買い物に行くことになり……オレのちょっと頑張ってみようかなって目論見はあっけなく潰えてしまいましたとさ……ちゃんちゃん。 END.

ともだちにシェアしよう!