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落ち穂拾い的な 暑中お見舞いのお話 4

「あ、大神さーん」  返ってきたのはいつものように呑気な声で……大神はすぐには止まれず、よろけるように数歩進んでからその場に立ち尽くした。  足を海に漬けたセキはきょとんとした顔で首を傾げると、ぴょこ! と飛び上がって再び身をかがめる。 「ちょうどよかったー!」 「……何がだ」  絞り出すように声を出し、大神は怒鳴りたいのをぐっと堪えながらしゃがみこんだままのセキの方へと向かう。  拠点を作った広い砂浜の方とは違い、こちらは少し岩が目立つ。  靴を履いていれば問題はないだろうが、素足で歩きまわるには避けたい場所だった。 「これ! これこれこれこれこれ!」  よいしょ! とばかりにセキが水の中から一抱えほどもある何かを引きずり出す。 「……は?」 「これ! 食べれますか⁉」  ニコニコと笑うセキはそう言って大神の方へと貝を差し出した。  赤くなった額を押さえ、セキは恨みがましい目で大神を睨む。 「痛いです……」 「反省しろ」  一抱えもある貝を不用意に触って、腕を挟まれたらどうするつもりだったんだ と大神は険しい顔を更に険しくさせる。  安易に触って腕や足を海中の貝に挟まれてそのまま溺死した という話がないわけではない。  もしこの目の前の貝が岩に挟まった場所にあり、そこでセキが動けなくなっていたら……  大神はぎりぎりと奥歯を噛みしめながら串に刺した魚をひっくり返す。 「オレだって食料みつけたかったんです!」 「直江が迎えに来るまではここでおとなしくしてるんだ」  つい、勢いもあって寝床まで作ったが、夜を待たずに直江が迎えにくる可能性の方が高い。  正直にいってしまえば水はともかく食料まで確保する必要があったかと問われてしまえば、なくてもよかったと答えを返す状況だ。 「大神さんにおんぶにだっこじゃないですか」  大神の大きなシャツの裾から覗く足をもじもじさせながら、セキは頬を膨らませてみせる。   「それでいいだろう」  なんてことはないように言うけれど、それは施す側だからだ。  セキにしてみたら、どうにも足手まといになっているようにしか思えず、自分がいなければ大神が今ここで魚を焼いている なんてこともなかったはずだと肩を落とした。 「オレだって、役に立ちたいんですもん」  好きな人に対してならなおさら と声に出さずに呻くように口の中で言葉を転がす。  言ったところでどうせスルーされてしまうだけの言葉なのだから、自分一人で愛でてやった方がいい。 「いつも役に立っているだろう? 直江が助かっていると言っていた」

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