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落ち穂拾い的な 暑中お見舞いのお話 5
「へ⁉」
意外な方向から褒められて、セキはわたわたと慌てながら緩みそうになる頬をさっと押える。
直江は自分のことをできの悪い付き人程度にしか思っていないんじゃって考えていただけに、セキにとっては嬉しい言葉だった。
「んふふー大神さんの寝かしつけとか大得意ですよ!」
「そうか」
「なんで興味なさそうなんですか!」
大神は今にも溜息を吐きそうな表情のまま、魚を刺した串をセキへと突き出す。
「もう! ……あ! せっかくですし、この貝も食べませんか?」
「食べない」
「なんでですか⁉ きっと中身もたっぷりで美味しいですよ⁉ ぷりぷりで栄養一杯ですって!」
セキは自分が見つけた貝をずりずりと大神の方へと押しやり、さぁ! とばかりに目を輝かせる。
一抱えほどもある大きな貝だ。
形状からシャコガイだろうと予想はつくが、素人のあてずっぽうで食料にするには危ないと判断して、大神は逸らすように後ろへとずらす。
「火を通せば行けますって! 大丈夫です! ダメでもお腹下すだけですって!」
「遭難中に腹何ぞ下したら大事だろうが」
「ええー……」
頑として譲らない様子に、セキは肩を落として波打つ貝殻をつついてみせる。
「じゃあ、せめてもの記念に貝殻だけでも持って帰りたいです」
「違う貝にしておけ」
とりつく島もなく言うと大神は自分の分の魚を手に取った。
程よく焼けたそれに食らいつく姿は、もう貝のことなんて欠片も覚えてないように見える。
「食べたかったなぁ」
「帰ったらうまいところに連れて行ってやる」
「しずるに自慢したかったなぁ」
「子供じゃあるまい、これの何が自慢になる 」
そう言いかけて、大神はくしゃりと顔をしかめた。
目の前で頬を膨らませているセキの子供っぽさに、年齢を思い出してしまったからだった。
「水から長く出しているから、身は諦めろ」
「はぁい」
先ほどまでの拗ねた態度を一転させたセキは良い子の返事をして、ふふふと笑いながら魚へとかぶりついた。
サイズはともかく貝殻を持って帰るには、中身が腐る前に取り出さなくてはならない。
「中身、ワンチャンいけませんかー? あれ? 大神さーん? 大神さん?」
貝をこじ開けていた大神がはたりと動きを止め、怪訝そうに貝殻を覗き込んでいる。
その表情は真剣で、セキの呼びかけにも返事をしないほどだ。
「どうしたんですか?」
「……これだ」
大神は一瞬顔をしかめるとさっと貝の中に手を入れ、引きずり出した何かをセキの掌へと落とした。
咄嗟に受け止めたセキの手が下がってしまうほどの重さ。
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