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落ち穂拾い的な 暑中お見舞いのお話 7

「オレのハジメてを事務所の床で奪った大神さんに衛生云々は言われたくないです」 「……」  ぱく と何かを言おうとした唇が再び閉じて引き結ばれる。  代わりに指先があやすようにとんとんと緩くセキの頭をくすぐっていく。 「んふふ、ちゅーしてくれたら水に流してあげますよ?」 「必要ない」  切り捨てるような言葉にセキは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにくふふと笑って大神の唇に食らいついた。  勢いよく飛びついたせいで歯が当たるかと覚悟していたけれど、逆に噛みつくような勢いで迎えられてセキは目を瞬かせる。  体の大きな大神に引きずり倒されて組み敷かれると、毎回猛獣に食われる獲物の気分になる。  山のように思える筋肉の塊とオスの匂い、そしてその向こうに他人事とばかりに存在する空のギャップ差に目が回りそうになりながらも、セキは大神にしがみつきながらうっすらと笑みを零す。 「んっ、ふ……ぁ、じゃあ、ずっと覚えててくださいね」 「……」 「大神さんが、オレを求めてつい襲っちゃった記念日なんですから」  にやりと笑いながら、馬鹿らしい という表情をする大神の唇に繰り返し唇を落とし、セキは着ていたシャツのボタンをもどかし気に外していく。 「しょってるな」 「オレの勘違いですか?」  そう言うとセキは首のネックガードを悔しそうに引っ掻いて外れないか試してみてから、肩を竦めてシャツを脱ぎ捨てる。  星の明かりに白く浮かび上がる体は大理石でできているような透明感を纏っていて、いつも白いと思わせる肌を更に白く輝かせている。 「匂いが強い」 「夜に飲む抑制剤が飲めなかったから……」  ピルケースも海水に浸かってしまっていて、中に入れられていた薬は全滅していた。  セキ自身ではよくわからなかったけれど、大神が鼻を鳴らすようにして確認してから言った言葉ということは、フェロモンが抑えられなくなってきているのは間違いなのだろう。 「  っ、服を着ろ」 「でも……服は向こうに投げちゃいましたし、体も熱くて   」  セキはそう言うと大神に跨ったままもじ と体をくねらせる。  女の体とは違い、どこもかしこも直線的で柔らかそうではない。けれど、そういった部分でない妖艶さが大神をひたりと狙う。  悩ましいまなざしのΩのフェロモンは僅かばかりでも強烈で、大神は目に力を入れてセキを睨みつけた。 「んっ  怒らないで……っ抑制剤、なくて……オレも、  どうしていいのか……っぁ。んんっ」  光るように真っ白だった体が、内側からさぁっと朱色を帯びていく。

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