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0.01の距離 3

 俺が何時か不都合なことをしようとした時、ミントはそれを親父にチクる。  そのために俺から離れられない。  ……家を出た俺なんかに、ついてくることないのに。  それでも売り飛ばされずに済んだ恩があるからか、あいつは自分の職務に忠実だ。  家を飛び出した俺の元へ、その日の内にちっさいカバンにエプロンとパンツだけ詰めてやってきた。 『まこちゃ  じゃなかった、これからは、旦那さまって呼ぶね! じゃなかった、呼びまするね? よ、よー……呼ぶからね』  寒い中、ジャージ一枚で玄関の前に立ち尽くしていたミントの顔色は青を通り越して真っ白で、だけどぎゅっと噛みしめた唇だけが真っ赤だったのはよく覚えている。  そしてそのままミントを家に入れー……たわけじゃなく、追い返したためにアパート前で凍死しかけたのを家主のおばあちゃんに見つかって、俺がしこたま怒られた結果、一人で住むのが契約だった部屋に二人住んでもいいって言われて、二人で住むことになった。  おばあちゃんの部屋のこたつに入りながら、叱られる俺を見てにたりと笑ったのを、俺はちゃんと見てたけどな。  とはいえ、何度も何度も、追い出す気はない。  気はない というよりはそんな気力が出ない、なぜならミントが可愛いからだ。  ドジで、間抜けで、家事もできないし、放っておくと自分の生活すらままならない奴だけれど、俺の名前を呼びながら後ろをついて回る姿は、Ωらしい庇護欲を全身にまとっていたし、そんなミントの姿は俺のαとしての加護欲をそれはそれは突きまわしてくれた。  ……好きなんじゃないかなって、勘違いさせるくらいには。 「……ちょっと距離とれば、加護欲かどうかわかるかと思ったのに」  二つ目の駅を越えた辺りで、さすがに軽く息が上がってきたから、少しだけ歩調を緩める。 『  ────どこの 馬 骨、   なら     』 『  ────オレはっ  恋人に  ふ   く いだから、  』 『  ────認めない』    やけにはっきり聞こえた認めない の言葉は、いつも硬質な響きで喋る親父の声だった。  分厚いドアを挟んでいるからか会話内容は断片的だったけれど、それでも通る声をしている親父の大きな声はよく聞き取れて……  『どこの馬の骨』  『認めない』  ミントがどう言い募ろうと拒絶の言葉を吐く親父が折れる気配はなく。  俺はその場からそろそろと後ずさりながら、聞きたくなかった事柄だと思うのと同時に、やっぱりかと思う気持ちも抱えていた。  俺には兄がいて、その兄に運命が見つかった。  なのに、親父はそれを認めなかったために、運命の番だというのに番になれないままだった。

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