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0.01の距離 5

 会話に困らないくらいの適度な距離を空けて、雑談をしながら歩く。  佐久間はこれを自然にしてくれるから、嬉しかった。  親父が優性の強いαだからか、幼い頃からそれを目当てに近づいてくる奴らが後を絶たず、まだ幼い自分ならば手籠めてしまえると思った奴らが絡みつくように手を伸ばしてくるのが常だった。  けれど、佐久間はきちんと俺が嫌がる距離を理解してくれている。  友人というくくりで見てくれるのは、本当に有難い存在だ。 「まぁ、公休届が間に合えばなんでもいいけどね」 「うん? 授業休むんだ」 「あ。……うん」  ちょっと引っかかるような返事に、慌てて自分の口を押えた。  公休届……正確には発情休暇届 だ。  あまりにもあまりにな届出名だけれど、どうしてだか他の言葉に直される気配がない。  番とか恋人のΩが発情期に入った際、大学へと出す届出だ。    Ωなら発情期があるものだし、悪いことではないけれど……エチケットとしてそういうことをずけずけと聞くのはよくない。  バースハラスメントなんて言葉も使われるのだし、気をつけないと と唇を引き結んだ。 「ふふ、それで察してくれるんだから、信くんはやっぱいい奴だなー」  くすくすと笑いながら、弾むようにして佐久間は歩いていく。  けれど俺はそんな佐久間を追いかけることができないまま足を止めた。 「二月……だよな」  ミントが転がり込んできたのは二月だ。  そして今は五月で……世間一般のΩの発情周期が三カ月が目安らしいから、それを考えるならミントの発情期はもういつ起こってもおかしくない時期なはずだ。 「信くん? 行かないの?」  校舎の入り口で不思議そうに振り返る佐久間に、とっさに首を振った。 「悪い! 用事を思い出したんだ! これ……これ! 教授に渡しておいて!」  カバンの中からレポートを出すのももどかしくて、不思議そうにこちらに戻ってきた佐久間にそれを押し付けて踵を返す。  背中に佐久間の声が聞こえたけれど返事をする余裕もなくて……  俺は一心不乱にたった今来た道を駆け出した。  大家のおばあちゃんは悪い人じゃない。  むしろ差し入れなどくれるいい人だ、だけどもアパートはそうじゃなくって、古いあのアパートは防音もそうだし防臭も全然だ。  古い古いアパートの扉は、その気になれば簡単に蹴破ってしまえるような造りで……  

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