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0.01の距離 7
こんな、匂いが漏れ放題で人の入り放題のアパートにいるよりも確実にミントを守ることができる。
「ミント、もうすぐヒートがくるだろう」
「えっ」
「お前の匂いが濃い」
真っ直ぐに言ってやると、ミントはしばらく言葉が飲み込めなかったようにきょとんとしてから、じわじわ……と首筋を赤くしていく。
「な、な、なに言ってんですます⁉ そんっ……例え旦那さまだからって臭いのことを言うのはエチケット違反っていうか、デリカシーがなさすぎるっていうか 」
ミントは暴れるように体を跳ねさせた後、掛け布団を巻き込むようにしてうずくまってしまう。
それだけでも……鼻を鳴らして嗅ぎたくなるような香りがする。
「エチケットでもデリカシーでもなんでもいい、行くぞ!」
なんとか俺の手から逃げようとする体を捕まえて、仕方がない……無理やりにでも抱え上げて連れていくしかないだろうと俵担ぎにして立ち上がった。
「あっ! やっ! やです! ダメです! やっぁ、ホントっホントにっ」
布団の重さがプラスされているとはいえ小さいミントは軽く、中身がちゃんと入っているのか心配になって布団の端をひっぱり……ぷりん と飛び出してきたのは小ぶりだけれど柔らかそうな尻だった。
「は?」
「あ゛────っ! ダメって言ったのに! ダメって言ったのにぃ! オレはちゃんとダメって言いましたー!」
バタバタと暴れて蹴り上げられた踵が俺の顔を直撃して……意識は一旦そこでブラックアウトした。
鼻にティッシュを詰め込んで、未だ止まらない血に眩暈を起こしそうだ。
「信さまぁ……お医者行きましょうよぉ」
自分が俺にこれほどの怪我を負わせたのがショックだったのか、ミントはオロオロと俺の周りをまわっているが、とりあえずその前に下半身をしまって欲しい。
辛うじてジャージの上着で隠れてはいるが、そこから伸びる直線的な白い脚を……俺は艶めかしく感じてしまっている。
「いい……直に止まる」
ちら と視線を二本の足に動かして……止まるだろうかと悩みながら、「下着はどうした?」と努めて冷静なふりをして尋ねてみた。
どうして、下半身むき出しで、布団にくるまっていたのか?
しかも俺のいない時に。
もしかしたら聞いちゃいけない話題だったのかもしれなかったが、それでもどこかで聞きたいという思いもあって……思わずごくりと喉が鳴った。
「あー……洗濯してました」
気まずそうに言うと、ミントは窓の方を指さす。
そこには洗濯物を干せるように物干し竿が外につけてあった。
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