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0.01の距離 9

「……待て、銭湯に行くようにって渡してあった金はどうした?」  逃げた視線が更に逃げて、つんと尖った唇がふぃふぃと動いている。  本人的には口笛の一つでも吹いている気なのかもしれないが、聞こえないものは聞こえない。  ちらりと放り出されていた携帯電話に目を遣ると顔色が悪くなっていたから、多分……課金かなんかだろう。 「お前なっ」  怒る気力も失せてぐったりと畳に突っ伏すと、さすがに悪いと思ったのかミントがもそもそと布団から這い出してきて足を突いてくる。 「まこちゃ 信さま、ごめんなさぃぃ」  ぺちぺちとペンギンのように俺の膝を叩きながら半泣きで謝罪する姿は、小さい頃に俺の布団に潜り込んで寝小便を垂れた時と変わらない。  あの時は確か、謝りつつも俺に濡れ衣を着せて逃げていったんだっけか? 「ろくなことしてねぇな」  思わず真剣な声が零れたが、俺の様子を窺ってびくついているのを見てしまうと何も言えなくなる。 「ふぇ……ごめんなさぁいぃ!」 「もういいって」  これで食費まで使い込んでたら……と思ったけれど、今のところその気配はない。  とりあえず、本人の言葉を信じてこの濃い匂いの原因が不衛生によるものだとしたらやることは一つだ。 「布団から出ろ! シーツを洗う!」 「出たらお尻丸見えになっちゃう!」 「~~~~っ!」  怒りで怒鳴り出したいのをぐっと堪えて、俺はミントから布団を引っぺがした。  うっうっ と泣いているミントを後目に新しいシーツを布団にかけてさっさと押し入れへと片づける。 「信さまぁ~寒いです~」 「そんな陽気じゃない」 「こんな格好恥ずかしいです~人に見られたら旦那さまの趣味を疑われますですよー」 「見せる予定はない」  バッサリと切り捨ててコインランドリーに持って行けるようにカバンにまとめていく。  そうしている間にコンロにかけていた湯が沸いたから、バケツに入れてタオルと一緒にミントへと差し出した。 「それで体を拭くんだ」    ミントは……素肌の上にひらひらエプロン一枚で部屋の隅に座っている……というか、そこから動くなと言ってある。 「信さまの服貸してくれればいいのにー!」 「風呂に入ったらな」 「けちー!」  まったく動き出さないミントに溜息を吐いて、タオルを絞って手渡す。 「金がなくても、清潔にだけはしとかなきゃいけないって言われてただろ?」  ミントの親もそうだし、俺の親もそこのところは厳しい。  不衛生は不幸や不運を招くし、身なりが整っていないとそれだけで侮られるからだ。    

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