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0.01の距離 13

 ムラムラしちゃう と佐久間は恥ずかしそうに言って手で顔を扇ぐ。 「あの時は、もうただ本能でしか考えられないから、やっぱり……そういう人が傍にいると爆発しそうになると思う」 「……そういうものか」 「信くんだから答えたけど、こんなこと簡単に聞いちゃダメだからね」  残りのジュースを飲み干して、佐久間は赤らんだままの頬を冷やすためにパタパタと手で懸命に風を送っている。 「……恋人でもないのに、ヒート間近のオメガとアルファが傍に居るのはよくないよなぁ」  俺の零した言葉は同意が欲しいものではなかったけれど、佐久間はうんうんと頷いて返す。  発情期に巻き込まれてそのまま番ってしまい……加害者と被害者で憎しみ合いながら番になった と、ぞっとするような話も聞かなくもない。  俺は、ミントの首を噛むのはやぶさかではない。  なんならもう、事故なら事故でいいから既成事実から始めてしまおうか なんて昏い考えまで生まれ始めているところだ。 「結果幸せになりましたってカップルばっかりじゃないしね。無理矢理だったから、結局どうにもならなくて悲しい結末選んじゃったオメガの子知ってる」 「うっ……」  噛んでしまえばどうにかなる なんてのは、αの傲慢な考えなのかもしれない。 「僕は……やっぱり万が一を考えて、お互いの為にも適切な距離を取った方がいいと思うな。あ! 付き合うなって話じゃなくて、番って一生涯のことだし、それをよく対策もしないまま事故で結んじゃうと絶対に後悔すると思うから。二人の仲を深めるためにも、んー……そう! 清いお付き合いを目指したらどうかな⁉」  清いお付き合い。  このご時世にはトンと聞かなくなった言葉に思わず目をぱちくりと瞬かせる。 「そもそも、家族……ではない? し、恋人でもないのに、一緒に暮らしてるのがおかしいよ。しかもあのボロアパートだろ?」  実は佐久間は俺の部屋の前の住人でもあった。  自分が出て部屋が空くから と声をかけてくれたために、佐久間の使っていた部屋をそのまま使っている。  だから、あの部屋のボロさと狭さはよくわかっているだけに、渋い顔をして唇をひん曲げていた。 「……え、ちょっと待って、あそこって布団二枚敷けるの⁉」 「っ」  はっとした佐久間の言葉に、とっさに視線をそらしてしまった。  もうそれは答えを言っているも同然で…… 「ちょ  ……いつもどうやって寝てるの?」  好奇心が隠しきれない弾むような言葉は、もう答えなんて聞かなくてもわかっているのがひしひしと伝わってくる。

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