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0.01の距離 16

 護衛だからか判を押したように黒いスーツの彼らは、個性を押し殺していて見分けがつかない。 「お米とお野菜とお肉、部屋の前まで運んでおくからね」  黒服の男達が傘地蔵のように差し入れを部屋の前に運ぶのを見ながら、思わず「肉……」と声が漏れる。  バイト先の賄いなんかで口にすることはあっても、どうしても量が必要なせいで縁遠くなってしまった存在だった。 「……ぅ、だから、俺は自立したくて」 「自立したからって、親からの差し入れをもらっちゃいけないなんて法はないでしょ?」  ね? と微笑まれて、実家から差し入れがきたら突き返そうと思っていた覚悟が崩れていく。  親父曰く、αはΩに弱いというのはこう言うところなのかもしれない。  黙って受け入れるしかないよな ともじもじしていると、父さんがくすりと笑いだす。   「お父さんも大学時代、こんな感じのアパートに住んでたって話知ってる?」 「……は?」  あの親父が? 「知らない」 「家から飛び出して、一人で生活してたんだって。だから、親子だなって思ったら面白くて」 「は? はぁぁ? 俺はっ……」  何かいい否定の言葉を探そうとしたけれど、自分の行動が親父のそれとまったく一緒だったことで、口ごもるしか手がなくなってしまった。  確かに、親父は誰がどうみても成功している人間だけれども、だからといってそっくりと言われて嬉しいかは別問題だ。 「……俺、には、ミントがいるし」  苦肉の策で出た言葉は、だからどうしたって感じだ。 「セージさんとこの大事な息子さんを預かってるんだから、きちんとした生活をしなきゃだよ?」 「俺はしてるよ」 「ミントくんを飢えさせたりしたら駄目だからね」 「まぁ、うん」  一応三食は食べさせているし、小腹が空いたら大家のおばあちゃんのところに行っておやつを強請っているのも知っているし、なんでか知らないが近所の小学生に駄菓子をもらってるのも見たことがある。  俺はともかく、あいつが飢えることはないだろう。 「たまには帰っておいでよ?」  曖昧にうん って返した俺に、父さんはちょっと寂しそうだったけれど……それ以上小言を言うだとか、何度も帰ってくるように勧めるだとかはしなかった。  ただちょっと寂しそうに笑うだけだったけれど、それが妙に心を引っ掻いてくるから、「そのうち」とだけ小さく呟くと、それで満足した様子だった。  部屋の前に置かれた食材はどれも新鮮で量もたっぷりある。  帰りに悩みながら買ってきた小松菜と油揚げとを見比べて、なんとなく苦笑してしまうのは悔しさからだろう。

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