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0.01の距離 18

 だから、辛うじて残った理性でいきなり扉を開けるのを堪えて、呼び鈴のボタンを押した。  けれどそれも一度では止まらず、繰り返し二回三回とボタンを押し込んでしまっていて……  その押し様に大家のおばあちゃんはびっくりしたんだろう。いつもおっとりとしながら出てくるのに、今日はバタバタとガラス戸の向こうから音が聞こえる。 「な、何かあったのかしら?」  もともと小さい女性だったんだろうが、年を取って更に小さくなった大家のおばあちゃんは、はぁはぁと肩で息をしながら俺を見てはぁー……と長く息を吐いた。  今にもそのまま倒れてしまうんじゃないかって雰囲気に、思わず抱き留めて「いきなりすみません」と謝罪する。 「ま、信くんがあんな鳴らし方するんですもの、何があったの? 警察に連絡は必要?」 「あの……ミントがこっちに来てないかって、思っただけなんです」  俺が恥ずかしそうに言うのを見て、大家のおばあちゃんはほっと胸を撫で下ろしたようだった。 「こちらには来てないわねぇ。今朝は草むしりしてくれたけれど」 「そ……ですか。じゃあ風呂にでも行っているのかもですね、お騒がせしました」  老人を慌てさせてしまったばつの悪さに頭を下げて、少し落ち着いた頭で電話をかければ事足りる話だったと苦笑する。 「電話ならうちのを使うといいわ、連絡が取れたらお茶にでもしましょう」    ほほほ と朗らかに笑うと、俺を招き入れて玄関に置いてある年季の入った黒電話を指し示す。 「先ほど、信くんの親御さんからご挨拶をいただいたのよ、信くんのおうちからもらったものだけれど、一緒にいただいちゃいましょうよ」  名案! とばかりにふふ と笑って小首を傾げるようすは、随分と昔の少女漫画の主人公のようだ。 「あ、……すみません。バイトがあるので」  ショックを隠しもしないおばあちゃんはしょんぼりとした様子で「しょうがないわよね」と言って肩を落とす。 「ミントちゃんも忙しいみたいだし、若い内は仕方がないといっても少し休むこともしないと」  屈託なく笑う笑顔に思わず手を止める。  中途半端に回されたダイヤルがジジ……と音を立てながら元に戻り、受話器からぷつぷつと断続的な音が響く。 「忙しい?」 「? そうよ、毎日慌ただしく出かけているもの、随分と忙しいのね」    随分と重く感じる受話器を戻しながら、どういうことだとゆっくりと目を瞬かせる。  毎朝、俺が学校に行く時にはだらだらとしているし、帰ってからも同じ様子だったから一日中ずっと家にいるものだと思っていたけれど……

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