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0.01の距離 27

「だ、だからぁ~それは心の準備ができたらなんですって」  拗ねたようにつんと唇を尖らせて……きっと普段ならそれで俺は納得して引いていた。  でも今は、わかったなんて言葉を返す気がまったく起きなくて。  細い顎を掴んで無理矢理こちらに向かせると、「しろ」とたった二文字を硬い声で告げる。 「ま、まこちゃ  」  ふる とミントが震えたのがわかった。  わずかな怯えを滲ませたような瞳は、俺が威嚇のフェロモンを漏らしてしまっているからだろう。 「 ゃ、って、言った  」  親父譲りの俺のαフェロモンは相当きついらしくて、ソレにあてられながらも逆らうことができたのはミントだからだ。 「  ────しろ」  簡潔な言葉にΩを従わせるためのフェロモンを乗せて放ってやると、ミントの体が大きく震えて……  濃い蓮の花のような色の唇がゆっくり開かれて、猫が伸びあがるようにミントの体が俺に近づく。  薄く開いた艶のある唇は、さっきまで触れたいと思っていたはずの場所なのに、今は硬質なプラスチックでできたオモチャのように思う。  ああ、ニセモノなんだ。  そう思った途端、噴き出すように怒りが湧いて、間近に迫ったミントの口を今度は俺が押しとどめる。  柔らかで濡れた感触が掌にぶつかって、それと同時に驚いて丸くなったミントの目が俺を映しているのが見えた。  茶色寄りの瞳に映っているせいか俺の顔は暗く沈んで、深い黒いナニかの中にいるようだ。 「……もういい」  困惑を隠しきれないミントの戸惑いが更に深くなるのを見ながら、乱暴にピンク色の唇の隙間に親指を差し入れる。  わずかな抵抗で歯列が立ちふさがったけれどこじ入れるようにしてやれば、嫌がりながらも口を開くしかなく……そのまま力を込めて引きずり下ろすと、つい先ほどまでと同じ体勢になった。  ミントの目の前にはこんな状況なのに萎れていないナニがあって……  俺は乱暴にコンドームをはぎ取ると、勢いのままにミントの口にそれを突き入れる。 「 ────っ⁉」  ぎゅ というか、潰された鳥の鳴き声のような音が肌を伝わって響いたけれど、何も聞こえなかったことにして無理矢理に喉の奥へと押し進める。  舌が抵抗して押し返そうとしたがあってないようなものだった。  必死に息をしようとして荒くなる呼吸音を押し込むようにして喉の奥を突くと、痙攣したような震えが先端を包む。  熱さもぬめりも動きも、薄いゴム一枚隔てた時よりも断然気持ちいいはずなのに、興奮なんて全然しないしむしろ虚しさが勝って叫びだしたくなる。

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